48.征服できないもの
「あのなあハシェット、お前、別に、俺みたいに戦いながら相手を追い詰めたい訳じゃないだろ?」
「え? は、はあ、まあ。そうですね。父のように他者と渡り合える舌戦を鍛えたいとは思いますが……」
ルガートが拳を下ろした頭を抱えて目を回していたが、気を取り戻して頷く少年に見当違いと頭を抱える。
「勉強もしてるだろうが、雑学でも身に付けてみろよ。それから相手を追い込みたい時ほど、笑えばいい」
「笑うのですか?」
「効くぞー。それも隙のない完璧な笑みだ。そこに降りかかる言葉の槍の雨霰。しばらく震える」
目を見開くハシェットの袖を掴み、離れたそうなカーラは恐怖を感じて距離を置きたい者の一人らしい。
とんだ日にさせてしまったな。
苦笑を堪えて、頭を下げるルガートは二人から離れることにした。
「ルガート様は扱えない武器はなさそうに見えますわね」
「弓は苦手だ」
「あらそうでしたの?」
まず扇子は武器ではない。
ルイリアとティリスフィリスには比較的あっけらかんと迎え入れられ、彼女らの側にいた他の貴族の子供達も意外と離れる気配はなかった。
彼女達も意外と根性がある。
「でもやはりルガート様鈍感ですから、場所とかムードとか色々お考えあそばせ!」
「外で試合した方がよかったか?」
「そのお話はもう終わりましたよぅルガート様!」
「ルガート様、他はそこそこですのになぜそこは鈍感なのですか!? ワザとですの!?」
「わたくし達ばっかり騒いでるんですよぅ!?」
「悪い?」
ルイリア達といた貴族の子息達とも概ね良好な会話ができただろう。
むしろ剣でないのに凄いと褒められ、概ね受け入れ態勢なのに驚くが、問題ないようでよかったと彼女達から離れた。
「振られてんな」
「八割方、君のせいだ」
「ん?」
一人寂しくソフトドリンクを飲んでいたジョシュアに苦笑しながら側に行くと、なぜか八つ当たりをされた。
痛くもないので今回は避けずに受け入れておく。
「八割は怖いしお友達のようなのでお近付きになりたくないって子達で、残る二割がワイルドなお姿格好いいときた!」
「容姿はお前の方が格好いいだろ」
「そういうところだ! まったく、ルガートのファンができた瞬間を見た気分だ」
「何だそれ気持ち悪い」
「実際本当にできてたらその首絞めるからな」
「理不尽ー」
今度はジミトリアスが近くにいたのでジョシュアを引き連れ、諌められるかと少し肩に力が入る。
厳しめの目にいくら何でもあの立ち回りは苦言も出るよな。
「兄貴」
「ルガート、言いたいことは分かるな?」
「ああ。流石にやり過ぎた」
「分かっているならいい。物事にはまず順序というものがある。それをすっ飛ばしてこんな公衆の面前であんなはしたない真似はするな」
「ん?」
「ん?」
幼さはあるが同じ顔が同じ表情をし、お互い論点が違うと違和感に気付く。
「モンブランの方じゃねえの?」
「お前はそれより重大なことをやらかしてるのにまったくこの弟は可愛いな!!」
声を大にして言うことではない。
まるで公開処刑の気分で頭を抱える。
ここでブラコンを発揮しないでくれ、ジョシュアからの視線が痛い。
「そちらに関しては一切口は出さないからな。苦労しておきなさい」
「分かった。倒れた人達は大丈夫か?」
「問題ない。障りがあるようなら帰る手筈も整えているし、来られるようならのちの準備も整っている」
「ぶち壊して何だけどフォロー助かった、兄貴」
「いやいや、父上達のお相手よりマシだ。お疲れ様。改めて、誕生日おめでとう。友達に祝われるのも悪くないだろう?」
「ん」
少しばかり照れるが、概ね同意だ。
「弟が!! 可愛い!!」
「殴るぞおい」
「仲が良いな」
荒削りなルガートのフォローで落ち着く者は少なかったので、ジミトリアスには心から感謝した。
結局この日は帰るまで目を覚さないまま退場したアレックスはロンブラン辺境伯に抱えられて馬車まで見送り、他の者達にも再度謝りながら見送り、別邸からの騒がしい声に振り返ると、ブルースター親子が帰り支度を整えこちらへ来ていた。
「ルガート! 私はみと痛い!!」
「お父様いい加減になさってくださいまし! ルガート様、また後日、遊びに伺ってもよろしいでしょうか?」
「ああ、ジョシュアも来るからな。いつでもいい」
「はい。では本日はその、趣向が違うお誕生日でしたが楽しゅうございました。おやすみなさいませ」
「ああ、おやすみ。気をつけて帰れよ」
「はい、ではご機嫌よう」
公爵の背中を先に押し込めて馬車の中へと入る二人に苦笑して手を上げ、これで全員見送ったか確認し、手を組んで長めの伸びをしながら別邸の中へと帰っていった。
忙しいホールの後片付けをするメイド達からも祝福の言葉をもらいながら書斎のドアを開け、ソファーに深々と腰を下ろす。
今日は散々だった、俺の誕生日のはずなのに。
「社交界って疲れる」
「悪ノリした私達も反省点が多い」
本当に反省してんのかこの野郎と胡乱な目を向けるルガートの視線は無視された。
帰ったら即ガレッソに言い含めてやろうと兄から手渡されたグラスを傾ける。
「しかし、ロンブラン辺境伯は少なくとも感謝しているだろう」
「そうかあ? 迷惑しかかけてない気がする」
父と兄とテーブルを囲み、軽めの酒を片手に疲れた溜め息を吐き出した。
別邸の書斎で酒を飲み交わす三人は、三様の寛ぎ方で酒を飲み下す。
「彼の噂は聞いていたからな。まああれでなかなか面白い奴なんだ」
「奥方様とは死別しているとか」
「アレックスが四歳の時に病でな。あれも唐変木なものだから、気苦労は察していたがあそこまでとは思わなんだ」
「いやアレは酷いでしょう」
「だな」
三人で頷き控えめに苦笑を漏らす。
どうなればあそこまで気性荒く育ってしまうのか。
放置の度合いを越えている。
「それからルガート、フレイン嬢に関してはお前、どうするつもりでいるんだ?」
酒を一口流し込み、考えていたものの触れられた内容に目を閉じる。
「婚約云々なら閣下に任せる。だが、フレイン嬢の気持ちを優先してやってくれ。ガキのうちから縛りつけたくない」
「……普通逆だろ」
「俺が嫌だ」
「というかルガート……自覚あったのか……お前……」
何で信じられないものを見る目でいるんだ兄貴よ。
「好みで聞いてるならまあ好きだけど、多分俺のはケインに向けるものに近い。親父達を見ているから、そう言うお付き合いは無理強いもしたくないし、本当にフレイン嬢の気持ちを優先で決めて構わない」
貴族の婚約は早いうちから済ますのが一般的で、それこそ生まれる前から決まっている者もいる。
可愛いと常々思っていても、ルガートの行為は小さな子をあやす感覚に近かった。
口にしなければいいが、流石に失礼だ。
結論をあちらに任せるのも大変失礼な話なのだが、公爵家は格上なのを忘れていない。
条件だって、他を考えればもっといい家柄もある。
「いやお前……」
「あれだけやっといて自覚なしか……」
「?」
「まあ難関が止めてるから、しばらく話題にもしたくないと思うからな。この件はラインハルト次第になるか。……ブッ!! あの、崩れようは傑作だった!!」
「ブーメランに金貨五枚」
「ルガート、賭けにならん」
こうして十一歳になったばかりの夜は更けていった。
自室へ下がると、テーブルの上を注目しろと言わんばかりのプレゼントの山に驚いた。
メッセージカード付きと家族からの目に見えて分かりやすいのはあとでに回し、驚きながらもいいものだなと顔を綻ばせながら一つ一つを丁寧に開けていく。
多くは当たり障りのないプレゼントばかりだったが、分けておいたメッセージカードつきのプレゼントを見ると、噴き出しながらそれらを開いていった。
ルイリアからはペーパーウェイト、ティリスフィリスからは上品な羽ペンをダースで。
ジョシュアからは剣の手入れセット。
フレインからは、新品の帯剣ベルト。
分かりやすすぎるし、なかなか嬉しいものだと自然と口端が上がる。
そして一番驚いたのは、おそらく父とブルースター公爵が用意してくれたのだろう、立派な剣。
「いや、立派過ぎんだろ……。これ何の素材だ? 微妙に反射が……いやいや……」
しばらく剣と睨み合いをしながら今度こそ夜は更けていった。
素材はたんまりあるからな!奮発した!(マクベス)
マーソラール様が懇意にされていた武器屋でしつらえた!(ラインハルト)




