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41.変わらない態度

 五階建ての本屋は立地は狭いが、扱う蔵書数は数店ある本屋の中では随一と兄が話していた。

 ルガートを見た瞬間の残念なアクシデントに、眼帯を見て驚いたのだろうと平静を装い、早速役に立ったのかと聞かなかったことにして目的の本を一階から探しに歩く。


「これを頼む」

「か、かしこまりました! ……お客様、魔法に関する新しい文献や書籍をお探しですか?」

「ああ」

「では、こちらのものより詳しい本があります」

「半分趣味だからこれらも購入する。今言った本も持ってきてもらえるか?」

「は、はい! ただいま!」


 ぱっと華やいだ笑みを浮かべて少々お待ちくださいとカウンターを離れる。

 一冊だけかと思ったが、十冊近く持ってきたルガートと同じだけの冊数を運び込んできた女性に驚く。


「念の為に中身を確認してからの購入で構いません。すべてお勧めしたいのですが、書かれている内容に大差はありません」

「……じゃ、この全部から厳選するなら、どれを勧める?」


 女性の目が光った気がした。


「そうですね。この三冊は絶対に読むべきかと。こちらとこちらは対理論ですが着目点は面白いです。あとこれはほとんど批評に近いですけど、魔力のない人達の観点らしい著書ですね。こっちの本は王宮魔導士様の文献ですが、ほぼ研究日記に近いです。でもこれも面白いしお勧めしたいので加えました。それからこれは、つい先日入荷してきたばかりの、アウロ国の神道魔法についてです。おそらく光魔法なんですけど言い回しが面倒臭くて面白いです。同じくこちらもアウロ国のものですが、こちらはふた月ほど前、新たに発掘された鉱石についての詳しい追加記事です。お客様の瞳の色と似ていると思って持ってきましたが、いらなかったら捨ててよろしいです。厳選するとこんな感じとなりますかね」


 ひ、一息。

 選りすぐられた八冊と新聞のような形の紙、分けられた山を見て、まだ余裕がありそうだと除けられた本を改めて流し読んでいく。

 一通り中身をさらって未練はなくなったので頭を切り替え、再び店員に尋ねた。


「光魔法と闇魔法に詳しい著書はあるか?」

「お待ちください! すぐお持ちしますね!」


 すんげー活き活きしてる。

 笑顔全開でカウンターを離れ、長くなると思ったのだろう、違う店員がやってきた。

 今度は男性で歳はガレッソに近い。


「お待たせして申し訳ありません」

「いえ、こちらも図々しく何度も頼んで申し訳ありませんが、有り難いです」


 軽く頭を下げると瞠目する男性店員がもげんばかりに首を振っていた。


「へ、い、いえ! そんな!! とんでもございません!」

「彼女はここの本の中身、全て覚えているんですか?」

「いいえ、あれはただの本が好きなだけです。読書量が常人より多いだけでして」

「王立図書館の本も網羅してそうだな」


 更に先ほどの口振りから図書館の情報も聞けそうな気がする。

 男性もありえますとやや呆れた顔で笑っていた。


「お待たせいたしました! ここ最近の著書でお勧めできるのはこれだけですね」


 二冊。

 意外なほど少なかった。


「少ないな」

「正直申し上げますと、光魔法や闇魔法でしたら図書館の方が管理が行き届いているかと思われます。ですが、図書館でも蔵書は少ないので、すぐに読破可能な量とだけ申し上げます。こちらのは一般家庭向けのものばかりですから」

「なるほど、助かった。じゃあその二冊も加えてこの山を購入する。請求はボスティス侯爵家へ頼む。これは手間をかけさせたチップ」


 走ってくれたのだから当然だ。

 それに、あとから兄貴達も来るしまた忙しくさせるのは目に見えている。


「え!? いただけません!!」

「いいからもらっとけ。じゃあまた利用することもあるだろうし、その時はよろしく頼む」

「あ、ありがとうございましたー!」


 ドアベルの音が響き、外で待っていたジミトリアスとケインが本の数を見て笑うのに、その表情は対照的で面白い比較だった。


「だいぶ買ったな」

「これでも半分になった。ケインの本も買いに行く」

「いや、お前はここで待っててくれ。俺が付き添う。ケイン、好きな本を買っていいぞー?」

「いいんですか!?」


 きゃーっと嬉しそうに一気に頬を紅潮させたケインに可愛い可愛い言いながら本屋へと消えていくジミトリアス。

 あれもしばらくかかるな、と二人が待っていたベンチの真ん中に本を置き、早速と買ったばかりの本の一冊に手を伸ばす。


「失礼します。お隣よろしいですか?」

「ご自由に」


 本に集中しようと視線を落としたまま返事をしたルガートだったが、映り込む淡い色のドレスに違和感を覚え、本を挟んだ隣に腰を下ろした人物に視線を移す。

 父や兄の言葉と正反対の行動の声の主が誰か、驚きに目を見開いた。


「フレイン嬢?」

「お久しぶりですわ、ルガート様。その後、お加減はよろしくて?」

「ああ……前より調子がいいくらいで……じゃない。なぜここに?」

「ふふ。内緒ですわ」


 可愛らしく指先で口元を隠し、お上品に笑うフレインの近くには彼女の屋敷でも見かけたことのあるメイド。

 目が合うと、丁寧にお辞儀をされた。

 軽く混乱したが怪訝に感じたルガートは本を閉じて周りを見回す。

 すると、本屋の二軒隣の店の影、やけに見慣れた人も隠れるようにしているようだがバレバレである。

 頭の色を考えろ。

 呆れた表情で手招き、観念してこちらへやって来たのは、ジョシュアだった。


「お前もか。どうしたんだ、本当に」

「ちょっとした用事だ。君こそその眼帯なんだ、笑えるな。この本の山も凄いな」


 まあ彼らからしてみたら今更の格好だ。

 特になんてことないとルガートとフレインの間にある本の山を見下ろし、これでも少ない方だと返す。


「魔法関連だ。最近の文献を見ていなかったから、かき集めてきた」

「あら、それでしたら我が家に言っていただけたらお貸しいたしましたのに」

「多分返すのもの凄く遅くなるぞ? いいんだよ。二人はいつから王都にいたんだ?」

「わたくしは今日着いたばかりですわ」

「俺も今さっき来たばかりだ」

「……」


 怪しい。

 謎の同着とは示し合わせたかのようではないか。

 またも怪訝に二人を見つめても、にっこにっこと笑うばかりで話を逸らす気でいる様子に追及しても無駄だなと溜め息をつく。

 それでも楽しそうにしている二人の顔を見る限り、悪いことではなさそうだ。


「ルガート様、実はわたくし買い物に参りたいのです」

「うん?」

「ぜひお付き合いいただきたいのですが、このあとのお時間は空いておりますか?」


 小首を傾げる可愛らしい仕草に苦笑で返す。

 受けたいのは山々だが。


「悪い、フレイン嬢。今兄弟で来てるんだ。家の奴らにも心配かけたから、できればこっちにいる間は、家族を優先させたい」

「まあそうでしたの。お事情は察しておりますので、構いませんわ。ではノースタックス様、このあと、わたくしにお付き合いしていただけます?」

「喜んでお受けいたします、ブルースター公爵令嬢様。ルガート、変に妬くなよ」

「何にだっての」


 謎に芝居がかった二人のやり取りを半目で見ていたら変な誤解をされる。

 いや、あからさまに不自然だからな、お前ら。

 何で今更ファミリーネームで名乗り合う。


「じゃあ二人も、しばらくいるんだな?」

「はい。お暇な時にお伺いしてもよろしいですか?」

「俺もー」

「いいぞ。親父達からは二週間近くいるって聞いてる」


 観光はしないので先の予定は家族に付き合う以外は別邸と図書館、本屋の往復になるか。

 ぱちりと目を瞬かせたフレインは一瞬の硬直に何かを考えているのだが、これもよく分からなかった。


「これは大変だ、フレイン嬢、急いだ方がよろしいかと」

「そうですわね! ではルガート様、本日はこれで失礼いたします。お手合わせが叶わないのは残念ですけれど、王都での滞在が楽しいものであることをお祈りいたしますわ」

「ありがとう。フレイン嬢も」

「ルガート、街中で魔法とか使うなよ? 最悪捕まるからな」

「家の奴らほぼ全員からこれでもかと念を押されたからやらんっての」


 優雅にスタコラ行ってしまった二人には従者やメイドも付いていたので、まあまあ目立つ団体の去り方に笑いながら何だったのだと見送った。

 何か明らかに裏があるのは分かりきっている。

 だが、子供の遊びなら可愛いものと思い、特に気にした素振りも見せずにジミトリアス達が帰ってくるまで再び本を見始めても、むず痒いと歪む口元を手で擦りながら溜め息を吐き出すのだった。

彼の眼帯について。


そんなの無くても態度が悪いのだから今更では?(ジョシュア)

とてもお似合いですが、いつものお姿の方が好感が持てますわ(フレイン)

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