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37.魔力枯渇

「おっさんもうできあがってんの?」

「そう見えるなら目医者を紹介しよう」


 どう見ても宴会を楽しんでるよ。


「一応、村の入り口に置いといた」

「助かった。調査以上の魔物が現れていたのはこちらの落ち度だな。村長、いらぬ心労をかけた」

「とんでもございません、我が村は幸運でございます閣下。他の土地でこのような端村までいらしてくださる領主様は多くないと聞きます。ルガート様、閣下よりお話を聞いております。この度は私らの村の為に、ありがとうございました」

「ん?」


 急に言葉丁寧になってる村長に片眉が上がる。


「名物の話をしていた」

「ああ、あれか。別に気にしないでいい。特産にでもなったらたまに買いに来る」

「お待ちしております」


 深々と頭を下げた村長に止めてくれと断り頭を掻いた。

 もしかしなくともこれは、身分も話したのか。

 改めて身分を明かしたがこの先は気楽にして欲しいと頼んでも頑として断られてしまう。

 諦めて酒をいただき、器いっぱいによそった熊鍋を食べつつブルースター公爵といつもの応酬をしていると、いきなり真顔になった公爵に酒を手放す。


「ものは相談だ」

「なんです」

「保存法についてだ」

「ああ、それか」


 それについてはずっと考えていた。

 日本の調味料が深く浸透しての通り、実は冷蔵庫や洗濯機など、一部の家電が多く慕われるくらいには浸透している。

 流石に高性能のものではない。

 ただ冷やすだけの物ばかりで微妙な浸透だが、アンバランスな世界観に顔が例のキツネ化したのは記憶に新しい。

 どうせならもっと普及してもらいたいものだ。

 よくいう倉庫型の大型冷凍庫などは浸透しておらず、こういうナマモノは腐らせてしまいかねない。


「氷室を作ったらいいんでは?」

「ひむろ?」

「この近くに洞窟とかあります?」

「いいえ、残念ながら……」

「じゃ、掘りますか」

「は?」

「家一軒分の土地で、肉を収納するのに最適な場所はあります?」


 戸惑い気味に案内する村長のあとにルガート、公爵、カルド、そして何か面白そうだと付いてきた酔っ払いの村人複数名と子供達。

 何の大名行列だこれと口の中で転がしながら、村の中心から逸れて森に近い場所へとやって来た。

 場所的にも木で陰っているしほどよく涼しげなので立地も最適と言えた。


「一旦離れててください」

「間近で見たいが」

「カルドさん、連れてってくれ」

「閣下、危険ですから離れましょう」


 手で追いやるルガートと体を震わせるカルドに連れられて行く公爵を見送り、頭の中で構成する。

 量を考えると建物を建てるより土壁を強化させ、茅葺や藁があるならそれを屋根に使ってもらおう。

 普段使う魔法とは違い、繊細さが求められる初めてのやり方に眉を寄せつつにやりと笑う。

 地下一階分の窪地を作ってから階段も作り上げ、サンドウォールを発動させると勢いのまま繋げてしまいそうになり寸前で止める。

 天井の中心が穴の開いた軽いドーム型となったが、これはこれで形としては成功だな、と全体に崩れないよう硬化魔法を加え、中へと入ろうとしたルガートの後ろに当然のようについてくる人達は一時放置した。

 階段にも魔法を施し地下に来ると、これだけでも十分に冷えるのだが、ここからだ。


「ダイヤモンドダスト」

「さむっ!」


 村人の誰かの声に笑い、中はそこそこいい感じに氷室らしくなった。

 攻撃性が皆無の魔法を放たれ、天井からの日の光を受け細やかに反射する氷晶がうっかり幻想的な仕上がりへと変貌した氷室に遠い目をする公爵とカルドは、もはや何かを言うでもなく見守るに徹した。

 お次はと手をかざす。


『村対象固定、形状固定、温度固定、第三者による複製不可、強化魔法固定、村民以外侵入不許可、夏限定氷精製、都度変更可能』

「……こんなところか」

「何をした?」

「固定魔法をかけたんです。年中冷えるようにし


 そこで、記憶が途切れた。





「……」

「…………おはようございます、ルガート様」


 ふと、目を開けると、なぜか目に馴染んだ美少女が見下ろしていた。

 混乱するまま肘をついて軽く起き上がり、見覚えのあるどこかの部屋とベッドから視線を戻すと、こちらもやはり見間違いではなかった人で。

 強張りすぎて歪む笑みを張りつけ、ルガートを見下ろす瞳は無言で非難する。


「……フレイン?」

「はい。……お目覚めになられて、本当に……」


 言葉が途切れたその頬に、涙が伝った。

 肩を小刻みに震わせ、しかし変化があったのはそれだけ。

 あまりにも静かに泣き始めた少女の姿に驚いて、言葉が出ない。

 泣いているのに微笑むフレインはそっとルガートの手を握り締め、また静かに涙をこぼした。


「俺が悪いんだろうが……」


 握られた手を離し、すぐにしっかりと握り返してやり、頬に流れる涙を親指で拭う。

 なぜそれほどまでに動揺させているのか掴めないルガートこそ動揺し、泣くなと言うには手前勝手すぎるとなお詰まる喉はただ息を継ぐだけに終わる。


「……貴方は、このまま、お目覚めにならないのかと……」

「悪かった。多分、だと思うがエンプティー起こったんだ。魔力枯渇手前か」

「三日も、お目覚めにならなかったのですよ?」

「悪い」

「高熱で、死んで、しまわれるのかと……」

「悪い。熱は覚えがないが、恐らくただの反動だ。まあ俺も初めてエンプティーになったから驚い」

「ご冗談では済まされませんっ」


 言葉を遮り、明確な怒気を露わに握り返す手に力が込められた。

 一時の怒りに涙が引くけれど、すぐにまた星色の瞳に膜が張られ、堪えようと歪む顔が僅かに傾く。


「そうだな。悪かった」

「どれだけっ、こちらが、心配していたのか、分かっておられませんわ……!」

「フレイン、ほら、熱も引いたし、起きた。許してくれ」


 体を前に倒して顔を覗き込んでも泣き顔は晴れない。

 軽く睨まれてもまったく怖くないのだが、止まらない涙に手を伸ばし、何度も丁寧に拭ってもフレインに変化はない。

 さてどうしたものかと体を起こしあげて頭を掻くと、ドア近くで控えていたメイドの存在に気付く。

 なぜか抱き締める仕草をするジェスチャーに目を見開き、止めろと首を振る。

 ゆっくり首を振り返され、同じジェスチャーにこの人本当にメイドかと呆れてこちらもまた首を振った。

 フレインの頭を撫でて体を起こすよう促し、落ち着かせる為、話を切り替える。


「フレイン、ここは公爵家か?」

「はい。お父様が、部隊長のカルドが昏倒しているルガート様をお連れして、この客間へ運び込みました」

「礼を言わなきゃな。起きたことを伝えてきてほしい。あとその前に、風呂も貸してくれるとありがたい」

「……あ、は、は、はい! そうでしたわよね! わたくし、気付かずに泣いてしまうだなんて! や、八つ当たりなど、お恥ずかしい!! 申し訳ありませんルガート様! ミネリア、すぐ用意をお願いしますわね! わたくしはお父様達に伝えに向かいます!」


 跳ね起きて一気にベッドから距離を取ったフレインは捲し立てる勢いを殺さず、半ば言い終わる前に俊足で部屋をあとにした。

 メイドも風呂の用意にその場を離れたのでひとまず安心してベッドに寝転がる。

 魔力枯渇にはならないように努めていただけに、かなり驚いた。

 こうも反動が酷いとは。

 熱を出したという件は記憶がないから判断がつかないが、まだまだ魔力量は少ないということか。

 しかし、判断不足でも枯渇したら死に直結はしないという事実も得られたので、収穫もあったと喜ぶべきだろう。


「お待たせいたしました。湯浴みの準備が整いました」

「ありがとう。フレイン嬢の様子を見てきてくれると助かる。まだ動揺してそうだ」

「かしこまりました。お着替えも中にご用意しております。ごゆっくりお浸かりくださいませ」


 丁寧にお辞儀をして出て行くメイドに息を吐き、回復薬を使ってくれたのか、ビッグベア戦で負った細かい傷がない体を洗い、湯船に浸かる。

 温泉に慣れきった体だからか、少し物足りなく感じてしまった。

 入浴剤があれば違うか?

 ゆっくりと言われたが行水で風呂から上がり、着替えに袖を通して不備がないか確かめてから部屋へ戻ると、ソファーには公爵とフレイン、そしてカルドが後ろに控えていた。


「体の調子はどうだ」

「ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした。お陰様で快調です」

「倒れるなら一言言え。フレインから魔力枯渇だと聞いたが?」


 ソファーに行こうとしたがベッドに座るよう促され、まだ安静にしてろということかと素直に従い、端に腰を下ろす。


「はい。魔力枯渇はならないようにしていたので初めてぶっ倒れました」

「……?」


 なぜか公爵とカルドが変な顔をして見つめていた。

卒倒したルガートはウィンディアが頑張って公爵家へ運びました。

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