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22.

「それぞれ楽しんでくれているようだな」

「あれは楽しんでると言っていいんで?」

「人の趣向はそれぞれさ。あとで話したいから書斎に来なさい」

「かしこまりました、閣下」


 まだ一〇歳の子供達の楽しそうな姿に、公爵という威厳は形を潜ませ、愛おしげに見つめる父親の目がこちらを捉えた瞬間、なぜか獲物を狙う狩人の瞳に切り替わる。

 おそらく火竜の売りつけ金の話かと当たりをつけ、当たり障りのない返事で頷いた。

 夕食も終えた談話室にいる皆はまだまだ展覧会の情熱が消えておらず、フレイン達は後で購入した品を見せ合う予定らしい。


「少し抜ける」

「はい、父の我儘に付き合っていただき申し訳ありません」

「別に謝るとこじゃねえよ。終わりはいつになるか分からねえから、今日はそのまま部屋に下がる」

「はい、ありがとうございます」


 メイドに書斎まで案内してもらい、相変わらずの蔵書の数に羨ましいと中へ足を踏み入れる。

 以前、この公爵家の夜会でも借りていたテーブルの側にあるソファーまで進むと顔を上げた公爵に頭を下げた。


「気楽にしていい。かけなさい」

「はい。……用意がいいですね、閣下」

「その歳にして酒の味を理解している奴も珍しい。うちの領地で新たに着手したばかりの酒だ」

「手広っ」


 少し掲げて色を見ると、見事な琥珀色が照明に反射してキラキラとしていた。

 これはもしかしてと匂いを確認しながら口に含むとやはり、ウイスキーに近い味に驚いた。

 ウイスキーは見かけたことが無かったから、一から製造したという公爵は、やはり魔物にときめくだけの人ではなかったらしい。


「……粗さは目立ちますが、いい酒です」

「まだ試行錯誤中なのでな。しかしそう言われるなら十分だろう」

「酒を寝かせると味わいが深まります」

「寝かせる?」

「ワインと同じです。樽に入れて、年数経過でもっと美味しくなります」


 公爵も酒を傾けようとしたグラスに手をかざし、魔法で丸型の氷を精製する。

 自身の分も作ると、しばらくそのままにして氷が溶け出すのを待つ。


「火竜の数はどの程度だった?」

「見える範囲では少し多く感じました。頂上付近に二〇はいたかと」

「やけに多いな。噴火する兆候か?」

「いえ、それはないです。単に場所が快適だから集まって繁殖しただけでは?」

「魔物に繁殖能力があるかは疑問だが、魔獣に変わる可能性もある。調査した方がいいかもな」

「それなんですけど、一応減らした方がいいかと思って八匹程度まで倒した後です」

「……。ルガート、なぜ一匹しか持ち帰っていない」

「馬が死ぬわ。皮と内臓だけ取り除いて残りは燃やしたんで、骨ならまだ山に残ってると思いますよ」


 思わず突っ込んでしまったが咳払いをして気を取り直す。

 ウイスキーをまた飲みながら嬉々としてどう持ち帰るか算段する公爵に笑い、そういえば前に聞いた話を思い返す。


「閣下、アウロ国で新たに発掘された鉱石の話はご存知ですか?」

「もちろんだ。こちらも調査したが、エメラルドではない宝石だ。守り石にしたいのか?」

「はい。話を聞いた感じ、ちょうど良さそうだと思いまして」


 守り石。

 その名の通り、御守り代わりの宝石だ。

 所有者の瞳の色に近ければ近いほど魔力浸透の効果も早く、格段に上がる。

 他者へプレゼントすれば、贈呈者の魔力が効果の補助代わりとなる。

 現在、魔法を使う者に限りがある為、まだ価値が高いものではあるが、耐性のない者や魔力の低い者には魔力を飛躍的に向上させることが出来るのではないかと考えている。


「まだ市場に出回る量は少ないが気に留めておこう」

「ありがとうございます。閣下って、あの魔物の本はどうやって書いたんですか?」

「若いの頃、君の父とパーティーを組んで冒険者の真似事をしていた時期があってな。その頃の名残だ」


 だからかと荷馬車を運転する姿を思い返す。


「……あの、公爵家の跡取りがそんな破天荒で良かったんで?」

「実は私は三男でな。この公爵家の跡を継いだのは娘が生まれる少し前だった。相次いで身内が不幸に見舞われた」

「……。お悔やみ申し上げます」

「ふ。気にするな、もう昔の話さ。君の父には随分と助けられた」

「親父が?」

「先に跡を受け継いでいたから色々と教わった部分も多い。少々抜けているところもあるが、窮地を察知する鼻だけはよかったからか、何かあるとすぐに連絡をくれたものだ」


 意外だと驚きはしたが、良き友人関係だったのだな。

 笑う公爵の目元の皺を見ながら話に聞き入った。

 それから大体数時間は話し込み、部屋に戻っても眠れそうになかったので酔い覚ましに窓を開けてソファーに体を預ける。

 父の冒険者時代の話を聞いた時はまだ実感が持てなかったが、思い返せば、執務室や書斎には訳の分からない素材が結構あった気がする。

 帰ったら聞いてみよう、涼やかな風に身を預け、しばらく窓の外をぼんやり眺めた。


(守り石にする大きさはどうするかな……)


 数も多いとかなり助かるが、現状では爪の先一つ満たない分でも手に入れられたら運がいい方だろう。

 何せいいものは王族辺りに献上される。

 その後、公爵家辺りで出回り始めたら伯爵家が手に出来る頃は一年はすぎると考え、やはり半年以上は待たなければいけないかと酔いもだいぶ冷めてきたので立ち上がる。

 窓を閉めようとしたが、ふと見える街の明かりに口端が上がった。

 平民の方ではまだまだお祭りが続いていたらしい。

 明るい街から視線を離し、そっと窓を閉めてベッドに向かった。



「おはようございます!」

「おはよさん。朝早くに悪いな」

「いいえ、魔力操作の為なら苦ではありません。あれから風属性の魔法も少しずつですが制御可能になってきました」

「どれ、打ってみてくれ」

「はい」


 一番弱い攻撃魔法を放った瞬間、すぐに結界魔法を発動し防御。

 当たりどころを見ると、なかなか均等に攻撃が繰り出されていた。

 制御に加え、魔力自体も向上したと見ていいだろう。


「次、火属性でやってみてくれ。火力は最大で」

「はい!」


 今度は水属性を盾代わりにすると途端に相殺した魔力の高さに頷き、高い制御にこれなら魔力の塊の制御法はもういらないかもと口にすると、紅潮する頬にテンションが上がっているのがよく伝わった。


「ではわたくし、火竜との対峙にはお連れするレベルに達しました?」

「攻撃魔法に関してだけだぞ? 耐性魔法の方は?」

「先日、七になりました!」

「凄いな。だが却下」

「なぜですの!」


 ぷりぷり怒りだすフレインに手を上げて落ち着くようジェスチャーで抑える。

 やはり魔法に関してはやや猪突猛進になるキライがある少女。


「ほとんど経験不足。ある程度戦い慣れてるならまだしも、初手が火竜とかどんだけ勇み足だ。手近なところから慣らしてく」

「手近な?」

「まあ今度だな。展覧会に行くんだ、今日はここまでにするぞ」

「残念ですわ」

「機会があれば火竜にも挑むから落ち込むな」


 輝く瞳を見ないように苦笑し、久し振りにジョシュアとも打ち合いを始める。

 こてんぱんに叩きのめし、属性魔法の探知についても経過報告も尋ねたが、あまり上手くいっていないらしい。


「そもそも、俺は無意識でやってるんだろう?」

「だな。だから意識的に取り組めば習得も早いと思ったが、やり方が違うのか……?」

「まず俺のこの魔法の出方とか、魔力操作や探知とは違うように思えないか?」

「……。それもそうだ」


 となれば魔力吸収か習得魔法、ラーニングやコピーは違うな。

 媒介、伝達、補助と、どれも必要不可欠だが、どうにもピンとこない。

 一番近いのは吸収になる。


「考えられるのは相手の魔力を吸収してからの放出。この吸収も任意で放てることが出来たら、楽だと思うんだがなぁ……」


 うーんと頭を悩ませる。

 魔法に対する不可思議はとても興味深いし惹かれるのだが、いかんせん分からないことの方が多い。

 もっと多くのゲームやファンタジーに目を向けておけば良かったなと今更無い物ねだりの後悔をするが、頭を振って前世を振り払う。

 情報は欲しいが前世での後悔を引きずっても意味がない。


「もう少し調査しておく。ジョシュアは引き続き、土魔法の格闘を頼む」

「分かった。次は勝つからな」

「ほざけ、負けねえよ」

「お二人とも、朝食は食べられそうですか?」

「ああ、もらう」

「ありがとうございます、フレイン嬢」


公爵家はそれなりの魔士が在籍しているので、その人が骨の為に往復を重ねます。

最後は半泣きです。

持ち帰ったほとんどの骨は素材に回されます。

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