20.芸術展覧会
24日まで12時更新です。
ブルースター公爵家が主催の展覧会。
それは意外にも広くに知れ渡っていて、こちらも先月行われた建国祭に国中に来たであろう他国から観光目的で訪れる者も多さに、圧倒される。
色取り取りの様々な花がカトーラの街中に飾られ、その花弁を魔法で浮かせているのかと見間違うくらいそこかしこに軽やかに舞う。
街の外まで届く花びらの独特の香りが鼻腔をくすぐった。
そして、街中がすべてを見ろと言わんばかりの花に見劣りしない芸術作品の数々。
極彩色に彩られたそこは、初見の者に衝撃を与える。
「ようこそ、芸術展覧会へ!」
濃紺の髪が風に柔らかくなびき、花のような笑顔で出迎えられた。
「想像以上だな」
「お気に召していただけて?」
「ああ。見ていて飽きない」
荷馬車で現れたルガートを出迎えたフレインは誇らしげな笑みを浮かべる。
ブルースター公爵家は少し離れている為、ここカトーラへ直接来るよう手紙を寄越されたがよかったのかと聞く前に、現れたその人に目を剥いた。
「ルガート! ようやく来たか!」
「ブルースター公爵閣下、お久し振りです。何でここにいるんですか」
「火竜の素材を持ってきたんだろう? 早く見せなさい」
聞いちゃいねえ。
あからさまにソワソワしていて子供かとツッコミたかったが、表情筋を抑えて荷台の幌を取り払った。
ちなみに俺は一人で来てる。
「おお!! 凄い! 頭蓋骨までこんな綺麗に残してくれたのか!? 一体どうやって倒したんだ!」
「肋骨数本の犠牲の代わりに首を飛ばして何とか」
「いや十分! 娘から聞いたが内臓も綺麗に残してるとか! もちろん全て買い取ろう!」
「骨全部はお土産なんで、売却は内臓だけで結構ですからね」
「謙虚で律儀だな。だが嬉しいものだ。ところでに」
失礼と思っても公爵の口を問答無用で手で押さえ、小気味いい音で誤魔化したが言葉尻を止めれなかった。
“肉”の単語に敏感な者。
「……お父様? まさか、魔物の肉を食べるなどと……仰いませんわよね?」
「勿論だ。荷馬車はこちらで引き受けると言おうとしただけだ」
「ルガート様、まさか魔物の肉をお持ちではないですわよね?」
「ああ、ちょっと過敏になっただけだ。俺の勘違いでした閣下。無礼をお許しください」
「いや気にするな。私も娘に嫌われたら立ち直れん」
いらん冷や汗を掻きながら未だ怪訝な表情のフレインに溜め息を吐く。
「しかし御者は……」
「私が引き受ける。とりあえず一通り楽しみたい。これは前払いだ、楽しんでくるといい」
何をどうする楽しむのか分からないがこのまま明け渡した方が良さそうで、お金の入った銀貨の数に笑った。
釣り銭を考えて金貨は止めてくれたのかと思うとくすぐったい。
馬は厩舎に休ませておくと手綱を受け取り、上機嫌な公爵は躊躇いもせず荷馬車に乗り込み、屋敷へ移動し始める。
やけに手馴れてんな。
「ルガート様、疑ってしまい、申し訳ありません……」
「いや、あれだけ嫌そうな顔を見せられたら気にもするさ。公爵がいつ言い出さないかこっちも冷や冷やしたし、誤解させたこっちも悪いから、そこはすまん」
「いいえ、お気遣いいただきありがとうございます。では、気を取り直して参りましょうか」
「ああ」
ちらりと背後を振り返り、娘と並ぶルガートの立ち回りの速さに感謝しつつ、荷台に一際大きく鎮座する頭蓋骨の上顎に手をかける。
引き揚げたそこには、一塊の肉の氷漬けが。
「彼には色を乗せて売った方が良さそうだ」
鼻歌交じりに屋敷へと帰る公爵の秘密を知るのは、娘の隣を歩く少年だけだった。
「他の奴らはまだ来てないのか?」
周囲を確認するも、それらしい人影が見えない。
貴族の割り合いがやや多いが、平民もごっちゃになって、皆、笑顔で行き交う姿に気も抜ける。
「皆様、とても展覧会を楽しみにしていたので、既に朝からいらしていると思います。夕方までには屋敷にいらっしゃるとだけ。残念ながら、どちらへ向かわれたかは、少し把握できておりません」
苦笑するフレインも楽しみにしてはいたと話す傍ら、他の者がその熱量を上回っていたのでこうして一人でいるらしい。
「毎年開催されるこの展覧会は見る者の目を楽しませる為、半月ほど展示されておりますの」
「結構長期間なんだな」
「美術品などはどうしても人手を使いますから」
「この花とかもその一環か?」
「はい。公爵領は鉱石の他、花と芸術に重きを置いております。ですので、その産業を踏まえた上、こうして時期を問わず開催されるこの展覧会は蒐集家にとって恰好の場ですわね」
「コレクターは際限がないからな……」
「ええ……全く」
その一人が身内にいるから遠い目で現実逃避をするフレインに苦笑する。
趣味は人それぞれ。
行き交う人の流れに当たらないようやや前に出て首だけ見下ろすと、ちょうど目が合った。
「フレイン嬢の趣味は?」
「わたくしですか? そうですね……今は、魔法の技術向上が趣味な気がします」
「そうか。ま、他のことはそつなくこなしてるイメージがあるから、そういうのも良いだろな」
「ルガート様は、魔法の研究でしょうか」
「研究してはいねえけど……そうだな……。ケインの問題集作りかな」
「問題集、ですの?」
少し拍子抜けの様子に笑いながら身内自慢になるが、と断りを入れ、ワザとらしく咳払いをひとつ。
「今、大体俺達と同じレベルの勉強をしてる」
「え!?」
「もう少し踏み込んでも良さそうだが、まあ俺がこうしょっちゅう遠出してる時は文字の練習や辞書を見るよう言ってるから、帰ったらまた驚かされるだろうな」
「驚きました。まだ四歳でしたわよね?」
「だから身内自慢って言ったろ?」
「ええ、この上なく」
嫌な笑みではないのでルガートも笑いながら街の展覧会の華やか声につられて周囲に目移りする。
パンフレットのような紙を見つけ、一度立ち止まって周辺との位置を照らし合わせる間も賑わいは絶えず、五感を程よく刺激する光景に少しの後悔。
「これだけの規模ならケインも連れてきた方がよかったな」
「来年はぜひ、ご一緒にいらしてください」
「ああ」
豪華絢爛の花々は至るところに飾りつけられ、隙間を縫うように壁と同じだけの一際大きなキャンバスに彩られた絵画が立てかけられている。
毎年目印がわりにされているのだとか。
どこかで音楽隊でも組まれているのか、そばだてて聴くとクラッシックに近い曲調。
かと思いきや、違う曲もどこからか流れてくる。
街中と言うのだから、音楽隊ももの凄い数がいそうだ。
街で売られているアクセサリーの類に服飾、生活用品に雑貨、アンティークの新古を問わない美術品。
入り乱れた物売りの光景は、まるで蚤の市やマーケットを思わせ感嘆の息を漏らす。
「改めて凄いな……」
「はい。ルイリア達はおそらくこの辺りにいると思います」
といっても街規模の展覧会。
離れている服飾区画の人は、女性の姿が目立つ。
しかもほとんどの者は帽子やスカーフを合わせたりと顔が見えづらく、探すのも一苦労そうだ。
探索魔法でジョシュアの位置だけは確認しているが、こことは正反対の場所にいる為、早々に諦めた。
動きが怪しいし行きたくないな。
「大衆も狙って値段もお手頃だな」
「はい。それに、お値段に拘らず、デザインは趣向を凝らした物が多いので、とても楽しいです。このように流線的なデザインが今の流行りですわね」
男女隔てなく楽しめそうなデザインのプローチを数点選び、数は十個ずつに分けて包んでもらい、そしてフレインがシンプルなデザインも可愛らしくていいと指したアクセサリーを購入し手渡した。
「え?」
「呼んでくれたお礼だ。他にも気に入ったのがあったら言ってくれ。何しろ懐が温かい」
「……ふふ。では、遠慮いたしませんわ」
両手で受け取ると紙袋を丁寧にポーチにしまい、雑貨がひしめく通りを冷やかしに歩き始める。
ケインにはおもちゃになりそうな物に切り替え、両親と兄、屋敷で世話になっているメイドや執事達の分を他でも買いながら段々と楽しくなってくるが、手に持てるのも限界がある。
荷物袋とか持ってくればと買うのを控えかけた時、少し離れたフレインの手に見慣れない物。
「ルガート様、こういったものが」
「準備いいな」
そこかしこに点在していた木の枝を組んだカゴに笑い、遠慮なく受け取る。
どうやら持ち出しというか、数が本当に相当数あるのでもらってもいいものらしい。
これも記念の一つになるからやり手だ。
「よく出来てんな。また買いたくなる」
「ルガート様はあまり買われていない方です」
「それもそうだな」
何せ周りを見るとこれでもかと手に持つ人や、立てかけられたキャンバスをどうにか購入して運び込めないか相談する者、平民が値切って安く買おうと試みている者、声の数分だけ賑やかに。
「建国祭から続くのに凄いな」
「展覧会に出展されてる皆様にとっては、こちらがメインですから」
「なるほど、確かに」
観賞用の部屋などで、吊って楽しむかと。
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