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18.

「で、お前が取り込んだ俺の魔力を剣に伝えて発生させていた。火の時は気付かなかったようだが、氷の時は悲鳴上げたろ?」

「驚いただけだ! しかしそれは本当に気付かなかったが、自分でどうこうした訳ではないぞ?」

「ああ、ほとんど無意識のうちに発動させたのはこっちでも確認した。取り込んだ魔法をまるっと使えるのかもしれないが、デメリットの方がデカいかもな」

「そうですね。状態異常にもかかりやすい体質なのかもしれませんな」


 ジョシュアの謎の体質が現れたので稽古は一時中断。

 ガレッソも検証に加わり、あれやこれやと話し合いは続くも、ピンとくる結果には終わらなかった。

 とにかく残る風と土の魔力も体内に残存しているうちに確かめたい。

 心を鬼にしてガレッソと対峙させた。


「土属性が一向に出ないな」

「相性かもしれませんな。となると、火と水が出やすい判断となります。これは一般的でしょう」


 地面と仲良くしているジョシュアを足元に、二人は頭を抱えていた。

 風属性は気付けば出ていたが、二人も視認できないままに終わった為、おそらく扱いにくい属性なのだと判断する。

 土に関してはお手上げだった。


「そうだな。となると土は……防御で出せたらよかったんだがな……」

「属性魔法を、防御に転換するのか?」

「ああ。ガレッソ」

「では」


 渾身の力でこちらに剣を叩き込むガレッソの攻撃を、寸前で作り出した土、というか岩で防ぐ。

 土だったら確実に脳天に容赦なく沈められていた。

 ボスティス家の人達は日常茶飯事の光景なので、リズリーですら微笑みを浮かべて待機している。

 その光景を至近距離で目の当たりに、瞠目したままの真っ青な顔で一度顔を覆い隠したかと思うと、我慢ならなかったのか、やはりくわっと見開いた目がこちらを向く。


「君達なんでそんな全力なのかな!?」

「分かりやすいだろ?」

「分かったがな!?」


 もはやガレッソに対する緊張も皆無のようなので、こちらとしては助かるが。


「こんな感じで、土は割りと攻守に適した魔法だ。使い方によっては足場にできるし、敵の妨害にも役に立つ」

「そうは言うが、これは元々起きたら無くなってた魔力の検証だろう? そこから始めた方が良くないか?」

「下手にあれこれ混ぜてやると寝ている時に発動したら危ねえよ。俺が起きてるならいいが、分かりやすいことから始めるのが一番だろ」

「……考えてたんだな」

「失礼だぞ」


 結局こちらも長い目で検証することとなり、ガレッソは仕事に戻り、ルガート達も汗や土埃を流しに屋敷の中へ戻った。

 すっかり温泉に馴染んでいるジョシュアはどこからどう見ても常連の入り方を心得ていた。

 のぼせないよう頭に冷えたタオルを乗せておく。


「君が強いのも頷ける。マーソラール様が師を務めているなら強いはずだ」

「別に師事を仰いでないぞ?」


 稽古はつけてもらえるが、技とかを教えてもらったことなどは一度もない。

 必殺技なんてものがあるなら是が非でも師事してほしいが、ガレッソの実力主義を見る限り、いつになるやらと肩を竦める。


「だが度々、彼と手合わせしているのだろう?」

「大抵は断られる方が多い。だが手合わせしたらいつもあの通りになるから、俺も躍起になるさ」

「いいものを見せてもらった。あの戦いは騎士には御法度だが」

「騎士の戦い方も嫌いじゃないぞ? パワータイプ向けで打ち出しやすいからな」


 結局、話が弾んでしまい、またのぼせるジョシュアを引き上げて、父の書斎に向かう。

 フレイン達を招待してもいいか尋ねると引くくらい喜ばれ、急ではあるが了承は得られた。

 ケインも伴い、フレイン達が宿泊している宿へと移動し、屋敷に誘ってみる。

 明らかに喧嘩しましたと言わんばかりのボロボロの様子にドン引きされるが、稽古と一言で済ましたルガートにジョシュアは呆れていた。


「という訳で、明日以降からの昼はうちで飯でもどうだ」

「喜んでお伺いいたします。実はわたくし達も、ボスティス侯爵様にお礼も申し上げたくて相談しておりましたの」

「ちょうどよかったな。温泉は楽しんだか?」

「はい、とても」


 ご満悦の顔を見れば一目瞭然だ。

 モール伯爵夫人も腰の調子がだいぶ良くなったと笑みを浮かべ、後は定期的に足腰を鍛えればいい。

 ティリスフィリスも喜んでいたが、伯爵夫人はややものうつげに表情を曇らせる。


「ですが、ただ屋敷の中を歩くだけとなるとドレスでは大変ですわね」

「では、ちょっと椅子から立っていただいてもよろしいですか?」

「? はい」


 ルガートとモール伯爵夫人に倣い、なぜか全員立ち上がって椅子やソファーの背もたれ側に移動する。

 背もたれに手を置いてもらい、まだ動かないよう口添えて先に見本をしてみせた。


「足は肩幅まで開いて、なるべくゆっくり腰を落としてください。背筋は丸めないよう伸ばしたままで、理想はここまで腰を落とし込んでください」

「……なかなか! 足腰にくるな!」


 先にやり始めたジョシュアの実況に笑って指を差す。

 例を得たのでちょうどいい。


「慣れないとああなるんで、腰に負担がこないのを大前提に。数はこなさなくていいので、出来る範囲で続けてみてください。歩行も効果がありますし、可能ならそちらも併用で」

「まあ、これなら自室でもできますわね」

「今はそれだけしていただいて、折を見て違う方法も増やして体を動かしましょう」

「はい。何から何までありがとうございます」

「こちらとしても、温泉のよさを布教していただけたらという打算もあるんで、お気になさらず」

「まあ、まあ」


 クスクス笑う姿にとりあえず周りで響く唸り声を無視した。

 キツいと言いつつ気に入ったらしいスクワットを続けるジョシュアに、椅子から手を離してやり始めたので無理しないよう言いながら、令嬢達は早々にリタイアしていく。

 温泉から上がったばかりなので若干汗もかくだろう。


「これは、かなり足腰が鍛えられますわね」

「わたくしも続けてみます」

「わたくしも。ダンスで疲れて動けなくなりますし、ちょうどいいレッスンになりますわね」

「いやレッスンとは違うだろ」


 思っていたよりウケもいいので笑いながらお茶に話に花を咲かせ、話は外国の流行に移っていた。

 俺達男連中には少し肩身が狭い話題に。

 観光客で見かけた人というくらいしか反応できない。


「レディグランド諸国の民族衣装の一部の布を新たにドレスに組み込んでいらした方がいて……」

「腰から流れるトレーンのことですわね!」

「素敵な刺繍でしたわよね、あれ。全て手ずから編まれたのだとか」

「こちらの刺繍とまた違った趣が……」

「ルガート……」

「止めろ振るな、俺も分からん」


 刺繍の違いも褒めなけば総スカンを喰らうらしいが、全て同じに見えるから悪いがコメントに困る。

 黙ってお茶で口に蓋をした。


「あ、レディグランド諸国といえば、そのお隣のアウロ国からいらした方の、新しい鉱石が発見されたというネックレスも素敵でしたわ」

「そのお話、詳しくお聞かせいただけます?」


 扇子で口元を覆い隠していたフレインだが、覗く目が光っていた。


「透き通るほどの透明度が高く……あ、ちょうどルガート様のような瞳が近いお色をしておりましたぁ」

「ん?」


 全員の視線を受けて沈黙。

 とりあえず静止しているが、誰に目を合わせたらいいものか。

 とりあえず目の前にいたフレインに口端だけ上げると途端に顔を逸らされた。

 何だよ。


「エメラルドか?」

「え?」

「その鉱石。聞いた話ではそうかと思ったんだが」

「エメラルドでしたら既に発掘されておりますし、おそらく違うかと。エメラルドも素敵ですけど、それよりも深い色でした」


 ティリスフィリスはよほど気に入ったのか、思い出しながら頬を赤く染めていた。


「クロムなんとかって石か」

「まあ、ルガート様、鉱石も堪能ですの?」

「今ほとんど言えてなかったろ。そんな名前の鉱石があったようなって思っただけだ。深みの強い緑で、透明度も高くていい色だったのは覚えてる」

「そのまま自分の目を褒めているよな」

「いや自分の顔とかそんな見ないだろ」


 流通するまで時間はかかるだろうな。

 目星だけはつけておいて、名前が早く分かれば助かる。


「ブルースター領地の鉱山でも発掘できたらよろしいのに」

「公爵領から発掘される宝石もとても美しいです!」

「ありがとう、ティフィー」


 水分補給のお茶を飲み干し、また沈黙に逃避した。

ジミトリアスもガレッソと稽古済み。

お兄ちゃんもそれなりに動けます。

ルガートが魔法込みで稽古をしても笑って即時応戦。

反射神経がずば抜けてます。

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