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17.

 ジョシュアの魔力消失については一旦置き、鍛錬すること小一時間。

 一人で火竜を倒したその腕は王国騎士団の者達に引けを取らないか、むしろ上ではないかと手加減されても沈められていたジョシュアから、どこでそんな技術を身につけたのだと尋ねられた。

 怪訝な表情を向けるルガート。


「普通にうちの衛兵長から教わっただけだが」

「かなり高度な技術だぞ? 以前は騎士団に在籍していた方なのか?」


 ますます不思議そうに顔の中心に皺を寄せるルガートは頭を掻いて首を傾げた。


「どうだろ。そこらへんは聞いたことない。まあ年齢的にいてもおかしくないか?」

「高齢なのか?」

「確か六〇歳は越えてると聞いてる。リズリー、ガレッソさん呼んできてくれ」

「かしこまりました」


 離れて控えていたリズリー。

 兄は王都へ向かった為、俺らの世話焼きに来てくれていた。

 視線を戻すと、限界値まで目を見開いていたジョシュアに肩をビクリと揺らす。


「何だその顔」

「ガレッソ……? ガレッソ・マーソラール様か?!」

「苗字忘れた」

「いや何で忘れられるんだ!?」

「坊っちゃん、お呼びかな?」


 現れたのは見た目四、五〇代に見える男が現れる。

 ボスティス家の衛兵長は目尻の皺を深め、こちらへのんびり歩いてくる。

 手にする木刀を振りながら頷いた。


「ガレッソ、久々に稽古つけて欲しい」

「おや、本当に久方振りですね。こちらはお噂のご友人ですか?」


 蚊帳の外だったが突然話を振られたジョシュアは、ガレッソから注視されるなり直立不動から勢いよく九〇度に頭を下げた。

 え、何それ。


「初めまして!! 私はジョシュア・ノースタックスと申します!! かの有名なマーソラール様にお会いできて、大変、嬉しく! 存じます!!」

「ガレッソ、有名人だったのか?」

「若気の至りの時分に少々。しかし坊っちゃんと同世代の方で知っておられる者がいらっしゃるのは驚きですな」


 噂が分からず勿体つけるガレッソに頭を掻くも、言いたくないならスルーするのが望ましいかと木刀を男に手渡し、真っ赤な顔で興奮するジョシュアに声をかけながらルガートは少し離れて静観できる位置を探す。


「それより稽古だ。ジョシュア、お前先に行け」

「はあああ!?」


 声が裏返っている。

 まるで憧れのアイドルを目の前に打ち震えるファンっぷりの動揺に背中を押した。

 本当に震えているものだから大丈夫なのかと目線を泳がせる様子と千鳥足に訝るも、問答無用で始めさせてもらう。

 ガレッソはにこにこと見つめるばかり。


「ガレッソ、こいつちょっと魔力に変化が起こりやすいみたいで検証中なんだ。強化魔法は一切使わないでやってくれ」

「かしこまりました。ではジョシュア様、お手合わせ願いますかな?」

「こっ、こ、光栄です!!」


 大丈夫なのか。

 とりあえず成り行きを見守ろうと二人から離れて観戦する。

 その間、魔力探知を試みた。

 付与した属性は問題なさそうで、今のところジョシュアの意識もガレッソに向いている。


(……特に変化はないが、やはり無意識のうちに何かあるのか。というかガレッソ、手加減しないの凄いな)


 笑いながらどんどん攻撃を繰り出す姿はもはや鬼。

 いくら木刀だからといって油断するとすぐ沈められるも、ジョシュアはなかなかに善戦していた。

 パワータイプのルガートと違い、ジョシュアはスピード特化型。

 加えて剣の才があるのは無意識なのか、たまにガレッソの攻撃を紙一重で躱す姿は少しクールに見えた。


「ん!?」


 その時、攻撃の一部に変化が生じた。

 本人は気付いていないのか、こういう時は真っ先に声を上げそうだが攻防を続けている。


「無意識か」


 となれば、このまま様子見を続けてから結果を伝えようと改めて探知を行う。

 ジョシュアに流した魔力は一つ減り、三つの状態で今も忙しなく駆け巡るものの、その一つが溶けるように吸収されると、彼の中に完全に消えた瞬間、今度は違う形で閃いた。


「うわ!?」

「おっと、油断大敵です」

「あがっ!?」


 脳天に容赦のない一撃が叩き込まれ、今度こそ地に沈んだジョシュア。

 手加減されていたとはいえ、初対面の相手でここまで長く剣を交えた者は久し振りに見た。

 ガレッソも満足げな笑顔でジョシュアを見下ろし木刀を脇に添える。


「先が楽しみですな」

「あ、ありがとう、ございました……」

「俺も驚いてる。ジョシュア、少し試したいことがあるから起きろ」

「鬼か!!」


 ツッコミにだいぶ隔たっているが全力投球大変結構。

 どうやら動けそうになかったので小脇に抱え、端に移動し、リズリーに諸々任せて休憩させる。

 休ませている間、こちらの鍛錬をしようかとジョシュアの落とした木刀を握り込み、ニヤリと笑ったガレッソと向き合った。


「手加減なしでよろしいかな?」

「もちろん、次こそ勝つ」

「勇み足大変結構!」


 木刀に折れないよう強化魔法を加え、ルガートから切り込む。

 ガレッソも同じく強化魔法を使い、切っ先をあっさり受け流されるとすかさず反撃をもらう。

 背中側へ回もうと脇を狙うがこれは先を読まれていた為、上から木刀を叩き込まれて体勢も苦しく、少し呻いた。

 何とか弾いて立ち上がる勢いを殺さず、特攻の速さで突きを繰り出した瞬間、絡め取られて手から弾かれそうになる寸前で持ち手を切り替えすぐさま体を反転。

 逆手になった木刀を足に向けるが、もろとも膝で蹴られた痛さと一瞬の暗転と軽く意識が遠のきかけ、頭を振って後ろへ倒れそうになる足に力を込める。

 再三読まる攻撃に思わず舌を打った。

 口内に滲む血の味の気持ち悪さに唾と絡めて吐き出すと、距離を開けられまた強く舌を打つルガートに笑みを向ける男は、直立であるのに隙がなかった。


「まだまだ剣筋が幼いですね」

「言ってろ、ジジイ!」


 振り上げた木刀を受け流される力に乗っかり体を捻る。

 蹴り出す先すら見据えられ、にっこり笑ったガレッソは隙だらけの姿勢を見もせず渾身の拳を腹にくれた。

 食後だったら絶対に吐いてたぞ。

 地面に仰向けで叩き込まれ、今日もあえなく負け越した。


「うっぐえっ、げほ!! げはっ!!」

「今のは油断しすぎですよ坊っちゃん」

「…………ありがとうございました」

「はい」


 今日はここまでと笑って水を受け取りに向かう姿を見送ると、瞬間的に痛んだ腹部の熱がようやく引けてくるが、明日もまたえぐい痣ができるだろう。

 ガレッソから水を受け取ると先に口の中を濯いで鈍痛を無視し、乾いた喉を潤した。

 そういえば静かなジョシュアに、怪訝に休んでいる場所へと視線を向けると、面白いほど口を大きくパカリと開けながら硬直していた。


「どした」

「稽古というか試合!!」


 今までで一番の声量にビクッと肩を震わせ、こいつだんだん地が割れてきてるなと笑いそうに口元を歪ませるルガート。

 驚かれたガレッソとの稽古だが、ジョシュアがいたからか、今日はなま優しい方である。


「ガレッソとはいつもこんな感じだぞ」

「君、貴族だということを忘れてるよな?」


 稽古に貴族は関係なくないか?


「坊っちゃんは手を抜くとすぐ怒るので」

「思いの外全力指導だった」

「俺より長丁場してた奴が何を言う」

「え?」


 ぽかんと呆けるジョシュアは頷いて笑うガレッソに視線を移し、狼狽したのか、視線が忙しなくなった。

 稽古中は夢中で気付かなかったのだろう。

 少なくとも、ルガートより十分な攻防を繰り広げていた。


「そうですな。時間も長く、ジョシュア様の方が上手く受け流されていたかと」

「俺は魔法があるから、立ち回りはある程度でいいんだよ」

「どちらも極めればよろしいではないですか」


 いつものやり取りに肩を竦める。

 実力差は分かっていてても、悔しいので要修行は欠かしていない。

 この男が強すぎるのだ。


「このジジイ、たまにこうやって脳筋になるんだよ」

「はっはっは。まだまだ未熟者の坊っちゃんにはちょうどいい相手かと」

「絶対違う!!」


 全力で突っ込んだジョシュアの声がこだました。

ルガートが主に扱う強化魔法は剣に物質硬化、身体能力系では攻撃力、防御率、瞬発力の上昇となります。

身内ルールでゴロツキ戦法(目潰しなど)や真剣での稽古はなし。

ちなみにガレッソは67歳です。

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