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13.

 食事を終えたらご機嫌になって笑顔の辺り、やはりまだ子供だと笑った。

 話を聞いたらやはり一人でボスティス領へと来たらしく、従者も送ってくれただけだと聞いた時は振り回されている従者に同情した。

 支払いを済ませ店先で待つ二人を見ると、ケインと仲良く指遊びのような仕草で笑う姿に足を止める。

 ワザと負ける姿に驚いたが、意外と子供の世話に慣れている様子に平和だなと改めて側へ向かう。


「屋敷に行くか?」

「彼女達はいいのか?」


 またあとでと話したフレインの言葉を気にしてだろう。


「従者に任せる。というか、あっちのメインは温泉だからな、案内が終われば俺は用済みだ」

「しかし、他の温泉の案内もあるだろう」

「湯治プランで来てるんだ。何度も入っていいし、時間をかけて入浴するのが一般的だ。それに、さっきのところは朝早くからも営業する。それ聞いたらこっちのことなんて忘れるさ」

「君、案外鈍感なのだな」

「蹴るぞ」

「既に蹴られている!!」


 ケラケラ笑うケインの教育に悪い気はするが、害意がないのが一番たちが悪いと思う。

 屋敷に帰ると出迎えたメイド長にジョシュアを紹介し、親父の執務室に足を向けて彼を泊める旨を話すと満面の笑顔で喜ばれた、何だ怖い。


「お前いつまでいるの」

「一週間ほどお邪魔させていただけませんか!」

「ああ何日いても構わないよ! ぜひ寛いでくれたまえジョシュア君!」

「ありがとうございます!」


 何この二人。

 部屋は俺の部屋の隣を用意してもらい、実はあった荷物を運び込む。

 道中もケインをジョシュアに任せ、メイドや執事達が運ぶと言っていたが重くないからとルガートが運び、部屋へと通す。


「とりあえずあとでメニエラにも頼むから、必要なものがあったら適当に言付けてくれ」

「助かる! ありがとう!」

「これに懲りたら無計画は改めろよな」

「善処する!」

「実行しろ」

「にいさま、おべんきょうは?」

「ケインは昼寝の時間だ。勉強は明日な」


 既に眠そうなケインを抱っこして背中を叩きながらジョシュアに荷解きをしてるように言い含め、部屋をあとにする。

 南西の日当たりの良いケインの部屋で出迎えてくれたハンナも朗らかに待ちかねていたのか、上品にお辞儀をした。


「お帰りなさいませ、坊っちゃま」

「あとは頼む」

「はい。今日は日差しが心地いいですから、よくお眠りになられますよ」


 運ぶ途中で眠ってしまった弟を起こさないようハンナに受け渡し、王都と領地を最近ではいつも以上に行き来しているジミトリアスの元へ。


「兄貴、ノースタックスのとこの次男が来たから、うるさくしたら悪い」

「気にするな。お前にも友達が出来たんだな……」

「友達……ではないな」

「本気の顔は止めなさい」


 領地の子供達でないのだからもてなしてきなさいと部屋を追い出され、ジョシュアが泊まる部屋へ戻ると荷解きは完了しているようで、このあとの予定を尋ねる。

 流石に一週間びったり家にいる訳ではないだろう。


「? いるが?」

「いや待て、観光しないのか? 温泉もあるぞ?」

「なぜ他人と裸で風呂に入らないといかんのだ。少々理解に苦しむ」

「温泉入ったことないのか?」

「風呂なら家にあるからな。必要性を感じない」

「……へーえええ」


 いらん世話だろうが、余計なお世話が頭をもたげた。

 剣の稽古を提案すれば面白いくらいに喰いついてきた子供と木刀を持って庭に出る。

 さて一汗掻かせてやろうと息巻いた俺は、かなり張り切った。


 呼吸が出来ているのか怪しい様子に無言で肩を叩いて水を手渡し、汗なのか泣いてるのかよく分からない顔で睨みつけられる。

 呼吸音もだいぶおかしかった。

 水を飲み切り、三角になる目が雄弁に責めているので、メニエラに水の二杯目をお願いした。


「君は! 限度というものを理解してるか!?」

「相手がいるとどうも張り切るキライがあってな」

「そういうところは調整したまえ!!」

「意外とお前が動けるもんだから調子に乗ったのは確かだ、そこはすまんかった」

「急に素直になるな!!」

「めんどー」


 少し休憩を挟み、タオルも持ってきてくれていたメニエラにお礼を伝えて汗を拭うジョシュアが落ち着くまでの暇つぶしに、手を挙げてみた。


「?」

「何で魔法に傾倒してるんだ?」

「傾倒とは違う。俺は、魔力が低いか皆無だから扱うのは困難なんだ。だから憧れる」


 風の魔法で汗を飛ばしてやるとキラキラとした目を向けられる。

 一瞬で引いた汗より魔法に向ける意識に苦笑し、空のコップに水を注いだ。


「無から有を生み出すその神秘的な光景に、心を奪われる」

「無から作ってる訳じゃないぞ?」

「え?」


 片手から火を出し、コップに注いだ水を取り出し、互いを合わせて消滅させる。

 その光景に目を奪われながらも、その耳はしっかり聞いている。


「魔力は一つの生命機関だろ? 使い過ぎればさっきのお前のように力尽きて動けなくなるし、魔力の限度、枯渇を超えたらおそらく死ぬ。奇跡だ神秘だと言うが、紙一重のものだ」

「だが、人が扱うにはまだ著しく難解なものだ! そこを突き詰めれば、人の生活に役立てることだって出来るだろう!」


 そこがいまいち腑に落ちないのだが。


「使いようによってな。これが多少なりとも魔物の討伐にも役立っているのは知ってるだろ? 人が容易く魔法を扱えるようになれば、デメリットも増えると思うが?」

「法整備はその為だろう。出来ないなら、俺達の役目だ」


 学を持つ者が、貴族が、王族が、国が統治出来れば、この上なく便利な世の中となるのは違いない。


「考えてるんだな」

「俺は次男だ。勉強してもせいぜいが高官止まり。もう少し早く生まれたかった」

「王太子殿下はなかなかお守りが大変そうだけどな」


 馬車馬の如く忙しくする兄の姿が脳裏をよぎり、肩を竦めていたルガートに焦った顔のジョシュアが口を塞いでくる謎の行動に目を瞬かせる。


「滅多なことを言うな! 不敬にあたるぞ!」

「もっと不敬な噂があるんでな、別に痛くも痒くもないさ」


 今更思い出したジョシュアとの初対面。

 そもそもが噂が原因で絡まれたのだった。


「……。ルガート、公爵家主催の夜会での非礼、誠に申し訳なかった。謝罪させてくれ」

「あ?」


 よろりと離れたかと思うとピシッと背筋を正したジョシュアは真っ直ぐにルガートを見据え、頭を下げた。

 倒れるかと一瞬反応が遅れて手を上げる形で硬直する。


「噂を鵜呑みに君を蔑み、挙句、公爵家も巻き込んでの瑣末、子供で済ます内容ではなかった。すまなかった」

「ちょっと動きすぎて頭沸いたか?」

「……」

「……。別にいい。言ったろ、余興って」

「君は人がいいな」


 髪を雑に乱して外方を向いたルガートに笑う少年は、すっきりした顔でまた水を所望した。


「しかし噂も当てにならんな。扇動された身で言うのもどうかと思うが、五歳の子供がどう王女に無体を働くのか。今思うとよくよく変な話だ」

「まあな。あのガマガエルの恐怖は一生忘れない」

「? ガマガエル……?」


 水球を器用に象って膝丈ほどの人形(ヒトガタ)を作り、それが俺と告げ、続けて作り出したガマガエルの容姿。

 嫌でも忘れられない事実に内心溜め息を吐き出す。

 強烈な印象が残っているから、いつまでも覚えているのは仕方ないにしろ、出来れば早く忘れてしまいたい。

 それを見た瞬間、パカッと口を開いて手を震わせながら水球ガマガエルに指を差したまま絶句しているジョシュアに、何が言いたいのか理解するルガートも黙って頷き返した。


「軽やかな鈴を転がすような可愛らしい声と誰もが愛らしいと謳う可憐なお姿、その髪は月のように甘く柔らかなハチミツ色、慈愛に満ちたアーモンド型の瞳は摩訶不思議な王家の証の紫色を称え、たおやかな指先と折れそうなほど小さく細いそのお姿は正に天使を象ったようで!」


 ジョシュアの視線が再び水球ガマガエルにクローズアップ。


「天使!!!!?」

「現実を見ろ」

温泉スタンプラリーは鉄板です。

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