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断罪者 ~絶望を知った少女が救済する物語~  作者: 冬野 冷
第一章 出会いと復讐
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8 悪夢と覚悟

「ぁ・・・・・・う、あっ・・・・・・アアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァアァァァァッッ!! 師匠、起きて!!起きてよ!!」


 赤い液体が、私の服にしみていく。


「嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!」


 鉄の臭いが鼻につく。


「治癒魔法『ハイヒール』!!」


 傷は治らず、治癒の魔法は効かず。


「師匠!!」


 死んだ者の声は聞こえない。


「わたしを、ひとりにしないでよぉ」






 ハッと、目が覚めた。心臓はバクバクと脈打っており、ひどく冷や汗をかいている。外はまだ暗く、真夜中であることがわかる。服が体に張り付いて気持ちが悪い。不快さを感じながら、私はベッドから降りた。そばに置いてあった水差しに直接口をつけて一気に水を飲みほした。


 はぁっ、と息を吐く。いやな夢を見てしまった。師匠が死んだ日の夢だ。今まで浅い眠りばかりだったので夢を見ることはなかった。どうやら、私は結構深く眠ってしまったようだ。いや、夢の内容を覚えているからこれでもまだ、眠りは浅いのだろう。それにしても、気持ちが悪い。汗でべたべたするし髪が肌に張り付いて気持ちが悪い。どうせこの時間に起きている人はいないだろうし、お風呂にでも入ってこようかな。


 さっそく、風呂場へ向かった。軍に所属している人たち全員が使う集団浴場は、とても広い。こんなにも広い風呂があると国の人間にばれそうなものだが、これは国が昔作った公衆浴場なのだとか。最近は誰も使っていなかったので革命軍が有効利用しているんだ、とブレイブが言っていた。とはいえこの浴場は一部屋しかないので時間を区切って男女で別々の時間帯に入っているらしい。私の予想通り、誰もいないようだ。簡単に体を洗って風呂に浸かる。お湯はさすがにぬかれていたので、魔法でお湯を沸かした。湯の温かさに、体の緊張がほぐれていった。

「あたたかい・・・・・・」

 体を風呂桶に預け、体の力を抜いた。次第に湯の中に体が沈んでいく。胸がずきりと鈍く痛んだ。いまだに、あの夢を引きずっているらしい。師匠が死んだ、あの光景は、記憶は・・・確かに私の精神にダメージを負わせた。どうやら、今の私はずいぶん弱っているらしい。

「師匠・・・・・・」

 目を閉じると、笑顔の師匠が思い浮かぶ。あの人はいつも笑顔だった。屍になってしまった後でも、その顔には笑みを浮かべていた。些細なことでもほめてくれて、小さなことにも気づいてくれて。

『ユウ、大好きよ』

「はい、師匠。私も大好きです」

 ふと師匠の声が聞こえた気がして返事を返す。すぐに、それが記憶の中の物であったのだと気づき、苦みを感じた。息苦しくて、胸が痛くて、思わず顔をしかめた。

「ねえ、師匠。私はレブリアス王国まで来たよ」

 師匠を殺したやつらに復讐をしたくて、完全な私情で革命軍に入れてもらった。

「あと少し、だよ」

 私が軍に所属したことによって、戦力が格段にアップしたそうだ。そのおかげで、あと数日もあれば本格的に動き出せる、とアステリオが言っていた。後数日、である。師匠は復讐を望んではいまい。それでも、私がしたいから・・・・・・。


「・・・・・・」


私のつぶやきは、誰にも聞かれることなく空気の中に溶けて消えた。






 私の入浴中に誰かが入ってくる、といったラッキースケベなイベントは起きなかった。が、部屋に戻る途中、ブレイブに鉢合わせてしまった。

「ユージェス、どうしたんだこんな時間に?」

「いや~、目が覚めちゃってさ。ブレイブは?」

「・・・・・・俺も目が覚めたんだよ」

「ふ~ん?」

 返事を返すのに、少し間があいていた。ただ目が覚めただけじゃないみたいだけど・・・深くは突っ込まないでおこう。

「んじゃあ、また明日」

 そのままブレイブの横を通り過ぎようとしたが・・・ブレイブに腕をつかまれそれは叶わなかった。

「なあ、ユージェス」

「何?」

「後少し、だ」

「・・・・・・うん」

 何が、と言われなくても理解できる。おそらく、革命のことを言っているのだろう。ぐっ、と腕をつかんでいる手に力が入る。

「怖いんだ」

「・・・・・・」

「いくら大義名分があろうと、たくさんの人が支持していようと、やろうとしていることは国への裏切りだ。失敗したら、あいつらもアスも・・・俺も死んでしまう」

「うん」

「もしかしたらお前も」

「それだけはないよ」

 ・・・・・・何を言い出すのかと思ったら。どうやらブレイブは、不安を感じているらしい。こいつは軍のリーダーでもあるからか、精神的に自分を追い込んでいるらしい。リーダーがこれだと、周りはもっと不安になってしまう。不安を感じるのはいいが、感じすぎはよくない。気を張るのはいいが、気を張りすぎて精神を追い込んでしまうのいただけない。少しの緊張と危機感を持って挑むくらいがちょうどいいと私は思う。・・・・・・仕方がない。私が何とかするしかない、か。

「私が死ぬことは絶対にない。私は復讐をするためにここに来たんだから」

「・・・・・・」

「私がいる限り、革命は失敗しない。だから、軍に所属している奴らも、アステリオも・・・もちろんあんただって死ぬことはない」

「でも」

「でもも何ももない! やれやれ、その調子だと当日は私一人で乗り込んでしまおうかな・・・・・・」

「それは困る」

「うん、困るだろう? だったら、もっと自信を持て。この()()は、絶対に成功するんだって思え。指揮官がそんなんじゃ、ついていく者が困る」

「ああ」

「それになあ、私は君たちに渡しただろう?エリクサーを」

「あれはとっても助かったが・・・・・・いいのか?」

 そう、私は彼らにエリクサーを渡した。エリクサーは私が死の森で修業しているときに暇つぶしとして作っていたので、腐るほどあるのだ。本来ならそんなに簡単に作ることはできない物だ。どんなけがや病気でもたちまち治してしまう、治癒ポーションの最高峰。しかし、どんなに素晴らしい物でも、捨ててしまいたくなるほどあるのだ。有効利用できるのならするのがいいだろう。

「別に? まだまだあるからさ。もっともらってほしいくらいだ」

「そうか・・・・・」

「ブレイブ」

「何?」

 そっと、腕を引き抜きブレイブを見る。ブレイブの瞳は不安そうに揺れていた。


「君は、何のために革命軍を作った?」


 たった短い時間一緒にいただけでも、優しい人だと知った。


「何のために、力を手に入れた?」


 彼には才能があったが、それでも努力を怠っていないようだった。


「何のために、剣を取った?」


 私のように、私怨で剣を取ったわけではないのだと、私自身がよく分かった。


「君が君である限り、君を慕う者たちはみな、君についていく。・・・・・・何を恐れることがあるんだ。君にはたくさんの味方がいるじゃないか」

「それは、お前も入っているか?」

「ああ。期間限定の味方だけどね」

「そうか。それで十分」

 ブレイブは私の手をとり、優しく握った。

「ユージェス」

「なに?」

「・・・・・・ありがとう」

 

 月の光が照らす中、ブレイブは優しく微笑んだ。


 復讐の時は、近い。






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