7 利害一致の関係と玩具
「私をあなたたちの軍に入れてくださいな?」
その言葉に、2人が厳しい顔になる。
「詳しく、聞かせてくれますか?」
「もちろん」
くすり、と笑い、改めて2人を見る。
「さて、何から話そうか・・・・・・」
「なあ、お前は何で、俺の軍に入りたいんだ?」
「もちろん、復讐するためだよ」
「何故、復讐したいのですか?」
「そうだね、話せば長くなるんだけどね・・・・・・」
私は、彼らにこれまで送ってきた自分の過去について語った。もちろん、異世界から来たということは伏せて。目覚めたら死の森にいたこと、危ないところを助けてもらったこと、師匠がいたこと、その師匠がレブリアス王国の者の手によって殺されたこと、その時復讐を誓ったこと、死の森の最深部で修業を積んだこと。気が付けば、日が落ちかけていた。ずいぶん話したようだ。
「そういうわけで、私はこの国にやってきたのです」
「「・・・・・・」」
ブレイブも、アステリオも、ずいぶんと恐ろしい顔になってしまっている。おもしろいなぁ。
・・・・・・そういえば、こうやって誰かと話したのは5年ぶりだ。これまではずっと死の森にいたから、顔を合わせるのは魔物ばかりだったし、ね。だからだろう、人の感情の起伏や表情に面白いと感じるのは。そんなことを考えていると、ブレイブに射抜くような目で見られた。
「ユージェス、さん・・・ステータスを見せてもらってもいいか? あんたの話が本当だったら、称号の欄に何か記されているはずだからな」
「いいよ。だれか、看破のスキルでとか持っているの?」
「持っていないが・・・俺は神の加護を受けているから、人のステータスを見ることは可能だ」
「そう、ならいいよ。どうぞ」
「・・・・・・《ステータス・チェック》」
ブレイブがそう唱えると、私のステータスが開かれる。
「っ!?」
ブレイブが驚いているのがわかる。私のステータスは普通じゃない、とおもう。しばらくステータス見てなかったからなぁ。ついでだし、私もステータスを見ようか。
「《ステータス・オープン》」
+++++ステータス+++++
レベル:1209
名前:ユージェス
歳:15
種族:魔人(大量の魔物の力を取り込んだことにより変異しました)
HP:50048974/50048974
MP:432983731/432983741
状態:———
〇魔法属性
火(Lv.MAX)・水(Lv.MAX)・風(Lv.MAX)・土(Lv.MAX)・光(Lv.MAX)・闇(Lv.MAX)・空(Lv.MAX)・雷(Lv.MAX)・重力(LV.MAX)
〇職業スキル
暗殺神(Lv.9)▽・魔導神(Lv.MAX)▽・錬金術を極めし者(Lv.8)▽・剣神(Lv.MAX)▽・レンジャー(Lv.MAX)▽・薬術師(Lv.MAX)▽・賢者(Lv.MAX)▽・ウルトラスター(LV.5)▽・仙人(LV.6)▽・精霊使い(LV.8)・黒蜘蛛(Lv.MAX)▽・黒龍(Lv.MAX)▽・九尾(Lv.MAX)▽ 精霊術師(Lv.MAX)▽・復讐者(Lvなし)
〇ユニークスキル
《魔眼Ⅹ[限界突破6]》《アイテムボックスⅡ[限界突破9]》《神聖結界Ⅸ[限界突破8]》《魔力操作Ⅴ[限界突破8]》《多列思考Ⅸ[限界突破2]》《加速思考Ⅷ[限界突破4]》《全言語理解Ⅹ[限界突破9]》《全状態異常耐性Ⅴ[限界突破8]》《超成長Ⅴ[限界突破7]》《世界辞典Ⅷ[限界突破1]》
〇スキル
《身体強化5[限界突破8]》《危険察知Ⅸ[限界突破6]》《予知Ⅲ[限界突破4]》《物理攻撃耐性Ⅹ[限界突破3]》《魔法攻撃耐性Ⅹ[限界突破5]》
〇加護
【主神・ミラの加護】【太陽神・ソルイエの加護】【月神・ルナレスの加護】【魔法神・ルドーの加護】【武神・ジュレンの加護】【戦神・ラミェの加護】【生命神・アンネの加護】【魔神・ウェインの加護】
〇称号
<神々の愛し子><世界の愛し子><賢者の愛弟子><賢者の妹><復讐を誓う者><死の森の踏破者><絶対的強者><絶対的支配者><天下無双><完全無欠><蒼天><閃光><流星><闇に身を潜める者><絶対的覇者><覇王><魂を見極める者><絶望を知る者><妖精の友><精霊の友><創造者><破壊者><紅月>
++++++++++
最後に見たのが確か4年前だったから、1年見ていないかったのか~。あんまり変わっていないな。しいて言うならスキルレベルが上がっていることと称号が多少増えているくらいかな? そう思いながら2人を見ると・・・・・2人は顔面を真っ青にして私を見ていた。ああ、アステリオはブレイブに教えてもらったのか。
「・・・・・・俺、こんな奴に喧嘩打ったのかよ」
「普通に考えて、死んでますよね」
「うん・・・・・・」
いやいや、いくら喧嘩を売られたって死なせないよ。死なせたら、後がめんどくさいし。とりあえず、話を進めようかな。
「さて、納得してくれたかな?」
「ああ、こんなの見せられたらな。お前の話が本当のことだって理解したよ」
「じゃあ、もう一度聴こうか」
改めて、お願いしよう。
「私をあなたたちの軍に入れてくださいな?」
お願いだから、私を・・・・・・私に、希望をください。あなたたちが、私の復讐を果たすための、最後の希望なんだ。
祈るように、願うように、思いを込めて問うた。これは私の願いであり、祈りであり・・・・・・果たさなければならない使命なんだ。だから・・・・・・だからどうか。
「私を・・・・・・助けて」
苦しい悲しい妬ましい憎い。怒って恨んで泣いて、泣いて・・・・・・。何かを恨み続けるのは相当気力を持っていかれるんだって、初めて知った。苦しくて苦しくて、仕方がない。復讐をやめてしまおうと考えたこともあった。師匠は復讐を望んでいないことだってわかっていた。わかっていたんだよ。でもやめられなかった。苦しくて苦しくて、暗いところに堕ちていくように、深い海の底に引きづり込まれていくように、業火の中でじりじりと焼かれていくように。声をあげたくても上げられず、助けてくれる人もなく、ただただ一人で歩いてきた道は、振り返ったら消えていて。闇にとらわれた私の目に映ったかすかな光にすがって、手を伸ばして。誰かにすがることもできず、誰かに相談することもできず、復讐にとらわれて、悪夢にうなされて、日常的に感じている焼かれるような憎しみの感情を抑え込みながら、今日まで歩んできたんだ。
ぽつりと、小さく、空気に溶け込むようにつぶやかれた私の声は2人には届かなかった。少し油断してしまって、私の弱いところが出てしまった。慌てて、心にふたをする。強気な笑顔を顔に張り付けて、まるで敵なんていないとでもいうかのように自信にあふれた態度をとって・・・・・・。そう、これでいい。これでいいんだ。『私』のことは、私だけが知っていればいい。
「・・・・・・わかった。俺の軍に入れてやるよ」
「ブレイブ、わかっているんですか!? 彼女は・・・」
「アス、わかっているだろ? うちは戦力が足りていないんだ。こいつの力は俺たちにとって魅力的だ。数を補うのは質ってよく言うけど、こいつ一人いれば国の一つや二つ、たやすく落とせる。それに、こいつの話は嘘じゃないってわかったしな」
「・・・・・はぁ。わかりました、彼女がうちに入ることを認めますよ。ただし、条件があります」
「条件って・・・うちの軍に入るのにそんなのって必要だったか?」
「普通はないですよ。でも、彼女は完全に私情でここに来た。だから、何らかの形で行動を縛る必要があるんですが・・・・・・」
「私を縛れると、本当に思ってるの?」
「そうなんですよ。あなた自身、個人の力のみでここまで強いので下手に縛れない・・・・・・なので、ユージェスさん。ブレイブで遊んでいいので、少しおとなしくしていてください」
「アス!?」
いきなりのブレイブ玩具認定に、勝手に認定された本人が焦る。かくいう私は、結構驚いている。ブレイブって一応リーダーだよね? 私としてはこんな遊びがいのあるイケメンを貸し出されてラッキーって感じだけど、後々困ったりしないのかな?
「いいの?」
「ええ、存分に遊んでください。ああ、ひとつだけ。こんなのでも一応仕事はあるんで、仕事中は遊ばないでください。効率が悪くなるんで」
「おお、悪いね。いいよ、おとなしくしてるよ」
うん、おとなしくしてるよ。私基準でだけど、ね?
「じゃあ、さっそく、ブレイブを借りてもいい?」
「どうぞ。どうせしばらくは謹慎の予定だったんで、後2日くらいは好きにしてていいですよ。それ以降は仕事をさせないといけないので、長時間貸し出すことはできませんが・・・・・・」
「え、ちょ、ちょっと待って」
「待たない」
「アス!!」
「ご武運を」
マジか。丸々2日も好きにしていいとか。アステリオさんわかってる~! ブレイブの顔が引きつってるけど・・・気のせい気のせい。こんな美人に遊んでもらえるんだから、むしろ感謝してほしいくらいだよ!!
「さあ遊ぼうかブレイブ」
「ちょ、変な副生音が聞こえた気が・・・! って引きづらないで、歩けるから! ・・・・・・ああもうっ!! 恨むからな、アスーーーー!!」
ああ、楽しくなってきた。