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断罪者 ~絶望を知った少女が救済する物語~  作者: 冬野 冷
第一章 出会いと復讐
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6 復讐者と革命家

「・・・・・・ここが、レブリアス王国」


 師匠が殺されて、5年の時が経った。死の森の最深部で修業を積んだ私は、ある程度のことでは死なないくらいに強くなれた、と思う。5年前のあの時から、私の気持ちは変わらずに、ただただ、師匠を殺した憎いやつらを殺したいと、心が叫んでいる。

 今すぐに殺したい。その気持ちを抑えて、私はレブリアス王国へと足を踏み入れた。


 レブリアス王国には、すんなりと入ることができた。仮にも王都に、こんなにもあっさりと入れるとは思わなかった。

 王都は・・・・・・酷い有様だった。寂れていた。店はどこもしまっていて、全く活気がなかった。所々に元気のない国民が座り込んでいる。大体の人が栄養失調のようだ。私はローブのフードを深くかぶり、足を速め、路地裏に入った。誰にも絡まれないように、少し殺気を漏らしながらある場所へと向かう。

 この国に着たらすぐに行こうと決めていたところがある。いや、すぐに会う、のほうが正しいか・・・・・・。

 ブレイブ・グレイバード。


 この国にある反乱軍、否、革命軍のボスである。


 そもそも、何故、私がブレイブに会おうとしているのか。本来、師匠を殺したやつ・・・この国に復讐することは簡単だ。王宮に忍び込み、王族・貴族たちを皆殺しにしてしまえばいいのだから。しかし、それでは私がただの殺人者になってしまう。魂が黒く染まってしまう。私には、そいつらを亡き者にするための正当性が必要だったのだ。 

 国を相手にし、王や貴族を殺しても、魂が黒くならないものがいる。それは、反乱者・革命家などといった職業を持つものと、その者を旗頭とした軍である。この職業を持つものが現れるのは、国がひどいことになり、民たちが嘆きの声をあげているときだ。人が救いを求めたとき、一番ふさわしい者がその職業を得るのだ。

 私は今、その職業を持つブレイブの下につき、自身の復讐を果たすために足を進めているのだ。おそらくあちらは、まだ戦力が欲しいところだろう。即戦力となること間違いなしの私を、ブレイブは必ず軍に入れる。

 






 私は足を止めてスキルを発動した。確かな手ごたえを感じ、振り返る。そこには、先ほどから私のことをつけていた男たちがいた。そう、男()である。一人の女性に対して複数の男がつけてくるとは、いったいどういうことだろうか。しかも、その男たちは相当鍛えられている。そして・・・・・・その男たちは革命軍に所属している奴らだ。ステータス的にも強いようだが・・・・・・仕掛ける相手を間違えたな。

「ねえ、あんた達。何で私をつけてたの?」

「・・・・・お前が俺たちのアジトに向かっていたからだ」

「ふぅん」

 どうしたものか。ここで何かあって、革命軍に入れてもらえなくなったら困る・・・・・・そんなことを考えていたら、背後からとてつもない殺気を感じた。剣を抜きながら《抜刀》のスキルを使う。透明の刃が敵に迫り・・・・・・敵はひらりと身をひるがえす。敵はこちらに勢いよく突っ込んでくる。おそらく身体強化を使っているのだろう。こちらも同じく《身体強化》し、更に《硬化》も使う。剣をしまうと敵は明らかに動揺し、しかし勢いは緩めることなく私に剣を振りかぶる。その剣を、私は素手でつかんだ。・・・・・・これはどうやら、スキルを使っていたらしい。察するに《風剣》だろうか。《風剣》とはそのまま、風の剣という意味だ。剣に風をまとわりつかせ、切れ味をとてつもなく上げ、風の刃を飛ばすことができる。見た目は普通の剣と全く変わらないように見えるため、スキルを使用しているのかどうか非常に見分けづらいのだ。

 そんな無駄なことをつらつらと考えていると、敵はなおも抵抗しようとしてくる。剣は使えないと判断するとすぐに剣を放し、素手で挑んでくる。しかし・・・・・・その拳が私にあたることはなかった。

 敵には糸がまとわりついていた。そう、私のスキル、《粘糸》である。

「甘い。自身より強い者がいないと、無意識に思っていたのか? 調子に乗るな。自身より強い者は、この世に数多存在していると思え。仲間思いなのはいいことだが、一方的に相手を貶めるのはいかがなものかと思うよ。もう少し、その頭を使え。・・・・・・それでも革命軍のリーダーか? 鍛えなおせ、ブレイブ・グレイバード。お前はまだまだ弱い」

 多少の威圧とともにそう告げると、敵は目を大きく見開いた。

 私に攻撃を仕掛けてきたのは、ブレイブ・グレイバード、革命軍リーダー本人であった。





「さっきは悪かったな」

 そう言ってお茶を出すブレイブは、少ししょげていた。よほど自身の腕に自信があったのであろう。調子に乗っていたところを、私にぽきりとおられてしまったわけだ。

「気にしないでいいけれど、むやみに特攻するのではなく、もう少し頭を使って仕掛けてほしかったなぁ」

「で、本音は?」

「勝手にこっちを悪者にされて超迷惑。馬鹿かお前」

 私がそういうとさらにしょげてしまった。

 ・・・・・・ブレイブは、黒い髪に金の瞳のイケメンだった。まだまだ年若く、幼さの残る顔立ちは、少しかわいらしくも見える。あれだ、乙女ゲームでいうところの、傲慢な俺様だが心を許した相手には甘えん坊、みたいな感じの攻略対象にいそうなイケメンである。いやはや、そんな男が弱って泣きそうな顔をしている様は眼福だなぁ。

 ブレイブの拘束を解いた後、私は革命軍のアジトに招待された。私のことを勝手につけていた男たちは謹慎処分を受けることになるらしい。哀れである。そして現在、私はリーダー本人から接待を受けているというわけだ。本当は、ブレイブも謹慎になる予定だったんだけど、そこは私が止めて、私の接待をしてもらうことにしたんだよ。ブレイブと話に来たのに、その本人と話すことができなくなったら、私はいったい何をしに来たんだよってなるからね。そのブレイブは、私が座っている椅子の横で紅茶の入ったポットを片手に立っているのだけれども・・・・・・。そしてその紅茶は私の手土産である。手土産持ってきた本人がそれを使うとか、何この状況。

「なあ」

「何?」

「その・・・フードは外さないのか?」

 ふいにそう指摘されて気づく。そういや、私、フード外してなかったわ。というか、ローブ自体が邪魔だわ。面倒な人物に絡まれたら面倒だからと思って仕方なく身に着けていたけど・・・・・・いつの間にか、ローブを身に着けることに慣れてしまったようだ。まあ、動きにくいっちゃ動きにくいし・・・・・・。そう思って私がローブを脱ぐと、ブレイブがヒュッと息をのんだのを感じた。みると、ブレイブは瞳を大きく開けて、その白い頬をうっすらと桃色に染めて私を見ていた。

「・・・・・・どうしたの?」

 ()()()、上目遣いになるように下から顔を覗き込み、首を小さくかしげる。すると、予想通りに、ブレイブの顔がさらに赤くなり、瞳が若干潤んだ。

「いや、その・・・・・・すごくきれい、だったから」

ぽつりとつぶやくように口から洩れた言葉を、私は聞き逃さなかった。その言葉を口にした本人は、自分が何を言ったのか気づいて慌てている。

「そう・・・・・・ありがと」

にっこりとほほ笑むと、ブレイブはぴたりと固まり次の瞬間、めちゃくちゃ赤くなった。・・・・・・なにこれ、すごく楽しい。

 そんな私の心境を知らないブレイブは、しばらくあたふたして・・・・・・部屋を出て行ってしまった。もちろん、紅茶のポットは持って。そして次の瞬間には誰かを引きずって戻ってきた。そして、紅茶のポットはその手に持っていなかった。

「ほら見て!! めちゃくちゃ絶世の美少女!! ねえ俺どうすればいいの!?」

ブレイブはそう言って、顔を覆ってしまった。どうやら、キャパオーバーでどうすればいいのかわからなくなり、人を引きづってきたらしい。そして、引きずられて来たその人は、ブレイブに首を絞められ、空気を求めて必死に呼吸している。私なんて目に入っていない。何このカオス。

「ほれブレイブさん、お仲間君の首絞まってるから。離したげてよ」

「え? うわぁぁ!? ごめん、ごめん。ほんっっっとにごめん!!」

「げほっ・・・・・・。書類半分」

「もちろん引き受けさせていただきます!!」

「ならよろしい」

首絞めた詫びが書類半分引き受けることなのか。それでいいのかお仲間君。そのお仲間君は私を見てピキッと固まり・・・・・・はぁ、と息を吐いて姿勢を正した。

「これは・・・・・・リーダーが慌てるのもわかりますね。うちのリーダーがすみません」

「いや、気にしなくていいよ。私も少しからかいすぎたなって思ってるから」

「そうですか」

 くすくすと笑いながらそう告げると、お仲間さんは微妙な顔でこちらを見てきた。が、すぐに顔を背けられる。耳が少し赤くなっているところを見ると、照れているだけのようだ。

「とりあえず、座ったら? 立ちっぱなしっていうのもあれだしね」

「ええ、わかりました。ブレイブは立っててくださいね」

「何故!?」

「ねえブレイブさん、紅茶どこに置いてきたの?」

「え? あ!! ちょっと探してくる!!」

 慌てて紅茶を探しに行くブレイブを見送りながら、私は目の前の人物を観察していた。革命軍のリーダーであるブレイブが引きずってきたこの人は、おそらく・・・ブレイブの補佐、いわゆる副リーダー的な位置にいるのだろう。ミルクティーみたいな色合いの金髪に明るい緑色の瞳の、紳士系王子様な見た目で腹黒い感じの、これまた、乙女ゲームの攻略対象にいそうな感じのイケメンである。

 ・・・・・・何なんだろうか。よくよく思い出してみたら、先ほど私をつけていた男たちもそこそこイケメンだったな。何、革命軍って美形じゃないと入れないっていう決まりでもあるの? そんな念を込めながら目の前の人物を見ていたらブレイブが帰ってきた。

「あった!! 廊下においてた!!」

「そっか~、見つかってよかったね~」

「ああ!!」

キラキラした目で喜んでいるブレイブを、生温かい目で見る。

「ブレイブ、落ち着いてください。お客さんのご迷惑ですよ」

「あ、すんません」

「いいよ~。かわいかったからさ」

「か、かわいい!?」

 にっこりと笑いながらそう言ってやると、ブレイブはわかりやすく顔を赤く染めた。にやにやとその様子を見ていると、正面から、咳払いが聞こえた。

「・・・・・・いいですか?」

「ん? ごめんね、お宅のリーダーで遊んじゃって」

「え!? 俺遊ばれてたの!?」

「いえ、それは別にいいんですけど」

「いいの?」

「見ている分には楽しいので」

「そう」

「え? え?」

 つまり、僕で遊ばないでくれってことだね。・・・・・・今度相手してやろう。おろおろしているブレイブをよそに、にこやかに会話する。

「とりあえず、自己紹介でもしませんか?」

「そーだね。自己紹介は必要だよね」

「自己紹介するのか?」

「「じゃあブレイブ(さん)から」」

「俺!?」

 突然自己紹介を振られてあわあわし出すブレイブをじっと見る。暫くすると、深呼吸をしてキリッとした顔になった。覚悟を決めたらしい。・・・・・・自己紹介って、なんか緊張するよね。気持ちはわかるよ。

「俺の名前はブレイブ・グレイバードだ。革命軍のリーダーだ。よろしく」

「僕はアステリオ・グレイバードです。革命軍の副リーダーです」

 言葉少なく自己紹介を終えた2人は、私をじっと見る。私は小さくため息を吐いて、スッと顔に出ていた感情を無にする。おそらく、今の私の顔は完全に死んでいるのだろう。さっきまでにやにやしていた人の顔が、急に無表情になるのって怖いよね。ついでに、目も死んでいる自覚がある。

「私の名前はユージェス。この国に、復讐しに来た者」

 そこで一区切りして、2人を見る。そして告げる。

「ねえ、革命軍のリーダーさんと副リーダーさん」

ああ、今私の顔は、きっといい顔で嗤っているのだろう。


「私をあなたたちの軍に入れてくださいな?」


さあ、交渉を始めよう。



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