2 森の中に飛ばされて、出会ったのは・・・・・・
目を開けると、森の中にいた。見渡す限り木、木、木!! ・・・・・・お兄ちゃん、飛ばすにしても、もっといいところがあったでしょ。神様が私のお兄ちゃんだったのには少し驚いたけど・・・・・・正直納得もした。私が鏡を見るたびに、後ろに映っていたやたら美形の少年は、お兄ちゃんだったんだね。私、鏡を見るたびに『え?何このイケメン』って思っていたよ。後ろを振り向いても誰もいない、でも鏡には映っている。幽霊じゃないかって思ってすごく怖かったんだよね。まあ、すぐに慣れたけどさ・・・・・・。
いや、そんなことはどうでもいいんだよ。今必要なのは現状確認だよ。・・・・・・手や足が小さくなっている。マジか・・・・・・マジで小さくなってる。さらりと落ちてきた髪は黒かった。すごく、黒い。とりあえず立ってみる。そしてくるりと一周、きめポーズ。うん、動きにくい。今の私は、白いワンピースに赤い上着を羽織って、ブーツを履いている状態。防御力なんてないに等しい。とりあえず、ここを移動したほうがいい。いやな予感がする。あっちに行ったほうがいい気がするなぁ。とりあえず、その勘に従って足を踏み出す。
歩いていると、モンスターに出会いました。現在逃走中です。怖いです。この世界に来て初めて見たモンスターが・・・・・・よりにもよってドラゴン!! 何故か、普通ではないスピードで走れているんだけど、これってなんで?まさかの身体能力スキルの自動発動ですか? よかった、身体能力スキルのレベルを4まで上げといてよかった!!じゃなかったら、今、こんな風に逃げられなかったよ!!あの時の私に感謝!!そして、いまにも付きそうな魔力!正直ピンチでしかない!!スキルを使うと、使った分だけ魔力を消費するんだね!!私、ビックリ!!あ・・・・・・魔力、切れた。
身体能力強化によるブーストが切れた私は、一気に足が遅くなる。あ、ダメだわ、死ぬ・・・・・・。そう思った、その時・・・・・・ドラゴンが、無数の氷に貫かれた。いきなり出現した氷の槍みたいなのが、ドラゴンを貫いていく。グサグサグサッて感じで。そして、ドラゴンが倒れた。
えぇぇぇ~。ナニコレ、え?どゆこと?意味が分からないんだけど・・・・・・。
「なんだか変な気配がすると思って久しぶりに外に出てみれば・・・・・・子供?なんでこんなところに」
きれいな声が聞こえて、後ろを振り返ると、プラチナブロンドに血のような紅い瞳の、とてもきれいな女性がいた。うひゃ~、すっごい綺麗な人だな~。
「あなた、どこから来たの?」
「うぇ?」
どこだろうねぇ~? 私にもさっぱりだよ。異世界から来たんだけど、そんなこと言うわけにはいかないし・・・・・・。
「それが私にもさっぱりで、気づいたらこんなところにいたのですが・・・・・・ここ、どこです?」
「ここは、『死の森』と呼ばれている、危険区域・・・の手前の森よ?『死の森』に入っていないとはいえ、ここはとても危険な場所で、子供がいていいところではないのだけれど?」
「そうなんですね~。どうしましょう?」
マジで、どうしようか・・・・・・。
「・・・・・・あなた、親は?」
「いません!!」
この世界に親はいないので、胸を張ってドヤ顔で言ってみた。美女は私を見ながら、何かを考えている。なぜだろう、すっごくソワソワする。落ち着かない・・・・・・。
「ねえ」
「はい、なんですか?」
「あなたさえよければ、私と一緒に来ない?」
「私はいいのですが、お姉さんのご迷惑になるのでは?」
「大丈夫よ。私は一人でここに暮らしているのだけれど・・・・・・寂しくてね。そんなときにあなたが現れたの」
私の前で膝をつき目を合わせて話すお姉さんは、少なくとも私には怪しい人には見えなかった。
「あなたの名前は?」
「・・・・・・ユージェス、です」
少し迷ったが、ステータスの名前の表示がこっちだったのを思い出し、この名前を名乗った。
「私はクリスティーナよ。よろしくね。あなたのことは、ユウと呼んでもいいかしら?」
「はい!!」
「ふふふ、じゃあ、手をつなぎましょうか。迷子になってはいけないもの。」
そう言われて差し出された綺麗な手を、ぎゅっと握る。その手は暖かかった。人と手をつないだのはいつぶりだろうか。思わず笑顔になってしまう。
「お家はすぐそこよ」
「はい」
私たちは手をつなぎ、森の奥深くに足を進めていった。
「ついたわ」
足元の悪い獣道を進んでいくと、開けた場所に出た。そこには、塔が建っていた。そう、塔なのだ。え?これ家なの?違うよね?どう見ても家には見えないよ? まさか、こっちの世界では塔が家っていうわけじゃないよね? 塔の周りは壁に囲まれていて、堀もある。扉の所は鉄。驚いて、足が止まる。いきなり立ち止まってしまった私に、お姉さんは心配してくれる。
「どうしたの? 疲れちゃった?」
体力を消費しすぎて疲れているのは本当なのでうなずく。それよりも、これ、大丈夫なのかな? 塔はなかなかに高く、日本のマンションの5階くらいある。塔を見上げながらそう思っていると、不意に浮遊感を感じ、お姉さんに抱っこされていた・・・・・・。え!!何で抱っこされてんの!?
「お、お姉しゃん!!」
「どうしたの~?」
かんだーー!!じゃなくて、なんで!?何でいきなり抱っこされたの!?
「お姉さん、降ろしてください!!私、重いです!!歩けます!!」
「重くないわ。それに、ユウは疲れているんでしょう?」
「それは、そうですけど・・・・・・」
「だったら、私に抱っこされてなさい。着いたら降ろすから。ね?」
そして、私を抱えたまま軽快に歩き始める。無駄に上手に歌を口ずさみながら、歩いているところを見ると無理しているようには見えない。恥ずかしい・・・・・・いくら見た目が子供だとは言え、中身は17歳なんだよ? この様子じゃあ絶対に降ろしてくれないよね・・・・・・。仕方なく、お姉さんの首に手をまわし、ぎゅっと抱き着く。すると、お姉さんが立ち止まり・・・・・・
「ああぁぁ~!!かわいい~!!」
私をギューっと抱きしめる。く、苦しい。お姉さんの肩をたたくと、私の様子に気づき、ごめんね、と謝られる。
「うぅ、かわいい~」
そう言いながら、お姉さんは門を通る。壁の向こう側は、なんというか・・・・・・生活感があふれていた。見渡せるところ一面、畑?みたいなのがある。木も生えているっちゃいるけど、全て何かしらの実をつけていることから、食料だと推測できる。そんな場所を通り過ぎ、お姉さんが塔の中に入る。塔の中は意外と広かった。生活しやすそうだ。だけど、掃除とか大変そうだなぁ。その部屋も通り過ぎて階段を上る。そして、一つの部屋の前で立ち止まると、扉を開く。そこは、きれいに整理されている部屋だった。生活感があるところを見ると、お姉さんの使っている部屋のようだ。
「まずは、お風呂に入ろうか。ユウ、1人では入れる?」
「大丈夫、です」
「ここがお風呂。この宝石みたいなところがあるでしょ? ここに手をかざすと水が出るの。もう一度手をかざすと止まるわ。ここをひねると温度調整ができる。赤い印がある方向にひねるとお湯に、青い印があるほうにひねると水になるの。こっちがシャワー、こっちが風呂にお湯を張るためのものだから。お風呂、使えそう?」
「はい」
「タオルはここ、服はここに置いておくからね。今は置いてないけど、ユウがお風呂からあがったときにはおかれているから」
「わかりました」
「よし、いいこ」
そう言って、頭をなでられる。うぅ、ムズムズする~。
「じゃあ、ユウ。この中から、好きな石鹸を選んで?」
お姉さんがいくつかの石鹸を取り出し、私に見せる。白、淡いピンク、薄紫、オレンジ、パステルイエロー・・・色とりどりの石鹸はそれぞれ香りも違うようだ。白は石鹸、淡いピンクはバラ、薄紫はラベンダー、オレンジはシトラス、パステルイエローは・・・何だろ?すごく甘い香りだ。どの石鹸も、そんなに強い香りじゃなくて、ふわっと香る感じなのがいい。
「じゃあ、これがいいです」
パステルイエローの石鹸を指さす。使ったら、どんな感じになるのか気になる。
「ユウは、何色が好き?」
「え~と、白、かな?」
すると、お姉さんは、いろんな道具を取り出して、下に置く。それはすべて白色だ。
「これは、ユウの物よ」
「え!!いいの!?」
「ええ、もちろん。道具の使い方はわかる?」
「うん、大丈夫だと思います」
道具の一つを手に取ってみる。意外と軽くて、そんなに力を使う必要がない。これは、桶みたいなものかな? 日本の風呂道具たちとあまり変わらないので、たぶん使えると思う。
「じゃあ、この道具は中に置いておくからね。使い終わったら・・・・・・ここに置いてあるのは私の道具なんだけど、こんな風に重ねてこれの隣においてくれたらいいからね」
「はい」
「私はちょっと外に出てくるから。上がったら、部屋の椅子に座っていてね? お菓子を置いておくから、好きに食べてていいよ。お風呂は、使ったらそのままでいいからね」
「はい。あっ、脱いだ服はどこに置けばいいですか?」
「この籠の中にいれてたらいいよ。何か、質問はある?」
「大丈夫です」
「じゃあ、またあとでね」
そう言って、お姉さんは風呂場の外に出て行った。
「ふぅ。」
結構疲れた。じゃあ、お風呂に入ろうかな。ふと、大きな鏡があることに気づき目を向ける。そこには・・・・・・超絶美幼児がいた。肩の上まで漆黒の髪は艶やかでサラサラとしている。漆黒の瞳は見ていると吸い込まれそうだ。真っ白で透き通るような肌に、紅い唇、ほんのりと色づいた頬が愛らしい。パーツの一つ一つが奇跡的な配置で置かれている。中性的な美貌を持つ幼児だ。素晴らしい、まさに美幼児。将来は、素晴らしい美形になるに違いない。その子に声をかけてみようと思い、手を伸ばすとその子も手を伸ばす。
・・・・・・うん?
「あの、そこの君」
と、問いかけても響くのは私の声のみ。そして、私が声を発している間、その子も口が動いていた。私がその子に近づいていくと、その子も近づいてきて・・・・・・
「っっっあぁぁーー!!」
鏡にぶつかった。そこで気づいた。ああ、この超絶美幼児は、私なんだ、と。
改めて、鏡を見ると、涙目になった超絶美幼児が。うん、かわいい。・・・・・・というか、これって・・・・・・
「私が作った、『ユージェス』のアバター・・・・・・」
子供の姿だけれど間違いない。成長したら、あのアバターと同じ姿になるだろう。
・・・・・・とりあえず、お風呂入ろう。
お風呂から上がるときれいなタオルと服が置かれていた。ありがたく使わせてもらおう。ドライヤーが欲しい。髪が肌に張り付いて気持ちが悪い。仕方がないので、タオルでできる限り水分を吸収させる。で、服なのだが・・・・・・淡いピンク色の清楚系ワンピースだ。着てみると、サイズがぴったりだった。もちろん、下着も用意されていた。
風呂場から出ると、お菓子が置かれていた。クッキーだね。おいしそう・・・・・・。早速1つ手に取り、食べてみると・・・・・・
「おいひぃ・・・・・・」
ヤバい。めちゃくちゃおいしい。夢中になって食べていると、お姉さんが帰ってきた。
「ユウ、クッキーおいしい?」
「うん!!」
「そう、よかったわ」
くすくすと笑いながら、お姉さんが答えた。
「そうそう、ユウのお部屋を用意したの。一緒に見に行かない?」
「行く!!」
手に持っていたクッキーを急いで食べて、飲み込む。あ、手、どうしよう。クッキーを持っていたので少しべたべたする。私が困っていると、お姉さんが手を出してごらん、と言った。言われたとおりに手を出す。
「少し、ビックリするかもしれないけど、動いちゃだめよ?『ウォッシュ』」
一瞬、手が泡に包まれる。泡はすぐに消えて、手はきれいになっていた。驚いて固まっていると、お姉さんに頭をなでられた。
「あら、少し濡れているわね。『ドライ』」
すると、濡れていた髪が一気に乾いた。もしかして、これって・・・・・・
「魔法・・・・・・」
そうだ、ここは異世界・・・・・・。神様と出会ったときに言っていたじゃないか、ファンタジーの世界だって。私自身、魔法を使えるようにしてもらったじゃないか。つまり・・・・・・この世界では、日常的に魔法が使われているということだ。
とりあえずお姉さんが用意してくれた私の部屋に案内されることになった。私の部屋は、お姉さんの部屋の隣に用意されていた。
「ごめんね。あまり、時間がなかったから最低限の物しか用意できなくて・・・・・・」
そういわれて部屋に入ると・・・・・・
「わぁ!!」
とても広い部屋だった。これ、一階建ての家が丸々一つ入るんじゃないっかていうくらいに広い。天蓋付きのキングサイズのベッド、学習机みたいなやつとセットの椅子、大きな棚が置かれていた。クローゼットもついている。床は、ふかふかのじゅうたんが敷かれているので、転んでも痛くなさそう。全体的に白や薄い青色でまとめられている。
「どうかしら。気に入ってくれた?」
「はい、とても!!」
出会って間もない私にここまでしてくれるとは思ってもいなかった。
「この部屋を、私が使っていいんですか?」
「もちろんよ。必要なものがあったら言ってね」
「はい!!」
こうして、私とお姉さんの生活が始まったのだ。