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断罪者 ~絶望を知った少女が救済する物語~  作者: 冬野 冷
第一章 出会いと復讐
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15 これからのこと

「ねえ、なんでここに王様がいるのかなぁ?」

 私はため息を吐きながら、椅子に座ってリンゴの皮をむいている彼を見た。

「そりゃ、逃亡防止のために決まっているだろ」

 そう言って彼――ブレイブは私を見る。

「お前はまだ本調子じゃないだろうが。力も戻っていないのにこの城から抜け出そうとするから、俺が監視しているんだ・・・・・・ほら、食え」

「え~、ブレイブが食べさせてよ」

「自分で食え」

「はいはい」

 

 私は目が覚めてから暫くの間体の治癒に専念していた。ある程度回復したころ、アステリオから現状の説明があった。

 私が眠っている間に、色々なことがあったそうだ。まず、レブリアス王国がなくなった。罪を犯していた者たちは軒並み処罰され、現在ここはグレージェイス王国となり、ブレイブを国王としかつての革命軍に所属していた人たちが国をまわしているらしい。ちなみに、アステリオは宰相なんだとか。城は新たに作り直し、今は国をまとめるのにひと段落ついたころらしい。窓から見る外の景色は、以前の閑散とした重苦しい雰囲気ではなく、華やかで明るく、人々が生き生きとしている様子が見られた。レブリアスの時代は終わったのだと、改めて理解したものだ。

 私はこの国に私がいる必要はないと思い、城から出ていこうとしたのだが・・・・・・そこで失敗してしまった。体がまだ回復しきっていないことを失念し、窓から飛び降りてしまったのだ。いつものように着地しようとしたのだがうまく体制を保てずそのまま落下。たまたま下にいたブレイブが私を受け止めてくれた。もしも下にブレイブがいなかったら、私は大怪我をしていただろう。

 そんなことがあってから、必ず私に監視が付くようになった。今日の監視はブレイブのようで、朝起きた時には既に部屋の前でスタンバイしていた。

「あんた、王様なんだから仕事してきなよ。暇なの?」

「んなわけないだろ。暇じゃねえし。今日はわざわざ時間作ってきたんだよ」

「あっそ」

 ブレイブが窓を開けると、部屋にさわやかな風が通った。どこからか花弁が数枚飛んできて部屋に落ちた。

「もう、春だな」

「そうだね。私が目覚めてからもう1カ月たつもの」

 どこか遠くを見ているブレイブは、初めて出会った頃に比べるとずいぶん大人びて見えた。心労の酷そうな王様業がそうさせたのか、それとも時間がそうさせたのか。その目の中には、あのころのような殺伐とした色はなく、今は穏やかに自分の国を眺めている。

「もうすぐ、祭りがあるんだよ。その祭りの準備にみんな忙しそうだ」

「へぇ、ブレイブは何もしないの?」

「やるぞ? まあ、他の奴らに比べるとやることは少ないけどな」

「ふ~ん」

「・・・・・・お前のおかげなんだ。こうして祭りが行えるのもな」

 そう言ってブレイブは窓に腰かけ、私を見た。

「お前がいたから、革命は成功したし、こうしてみんなと笑いあえる。本当に、ありがとな」

 ふっと笑い、ブレイブは私にそう言った。

「・・・・・・どういたしまして」

 私はそう言って笑った。

「なあ、ユージェスはこれからどうするんだ?」

「これから?」

「ああ、体が完全に回復したらな。これからもこの国に居続けていいんだぞ?」

「いや、ありがたいけれど、気持ちだけ受け取っておくよ。もう決めているからね」

「・・・・・・じゃ、どうするんだ?」

「旅に出ようと思う」

「旅?」

「ああ」

 私は目を閉じて、師匠の笑顔を思い浮かべる。あの頃を思い出しても、以前のように胸を締め付けられることもなければ苦しく感じることもなくなった。

「色々なところを見て回りたいと思ってね。師匠との約束なんだ」

 無意識に口角が上がるのを感じ、これから起こるだろうことに思いをはせていると、ブレイブが驚いたように声を上げた。

「お前、そんな顔もできたんだな」

「はぁ?」

「・・・・・・いや、何でもない」

 そっか、と満足そうに頷きながらブレイブはにやりと笑った。

「それなら、さっさと体を回復させないとな。安静にしてないと、旅に出る日がどんどん遠のいてくぞ」

「はいはい、ちゃんと安静にしてますよ」

 こうして穏やかに過ごせているのは、彼がいたからだろう。彼のあの言葉がなければ、私はとっくに命を捨てていたから。師匠の言葉も思い出せずに、一人で。

 

 今は休もう。旅に出るために。

 そして、旅に出るときには絶対に伝えよう。


 『ありがとう』と。


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