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断罪者 ~絶望を知った少女が救済する物語~  作者: 冬野 冷
第一章 出会いと復讐
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14 復讐を終えて

 『復讐者の詩(ナゲキノウタ)』を使った代償は高かった。

 私は復讐を終えた後、旗を掲げた。革命の成功をわかるように、旗を高く掲げた。みんなが歓声を上げる中、私は確かに感じていた。復讐を終えたことにより、空っぽになってしまった自分に。

 

 目を開けると知らない天井が見えた。体中がずきずきと痛んでいる。こんなに痛みを感じたのはいつぶりだろうか。ステータスを見ると、あれだけ多くあった魔力は枯渇し、生命力も死ぬぎりぎりのところを保っていた。無駄に高くなっていたステータスが役に立ったようだ。

 『復讐者の詩(ナゲキノウタ)』は自分の魔力と生命力、そして自分が復讐対象と認識した者の黒い魂と引き換えに起こされる、神の天罰だ。これは職業スキルに復讐者と記されているものにしか使えないし、いくつもの条件を果たさなければ発動しないようになっている。その条件とは次の2つである。

 その一・使用者の魔力と生命力が両方とも10万を超えていること。

 その二・復讐対象の魂が黒く染まっていること。

 この二つの条件が満たされていなければ絶対に使うことはできない。そもそも、普通の人に魔力と体力を10万超えることはできないし、過去にこの術を使用した者は死んでしまっている。死んだのはおそらく、魔力と生命力が10万しかなかったからだろう。最低でも10万は必要という意味だったのだ。そんなの、普通の人であれば一生かけても無理だろう。でも私は違った。人であることをやめて、復讐することだけを目標にして生きてきた化け物だ。死の森でひたすら強者を屠ってきた化け物だ。たった5年しかたってはいないけれど、それでも死に物狂いに身に着けた力はここで役に立った。10万を優に超える力を身に着けた私は、今もなお生きていた。

「・・・・・・どうせなら、あの場で死んでしまいたかった」

 私しかいない室内に、音が染み渡った。

 ああ、これから私はどうすればよいのだろうか。復讐を終えて、師匠の仇をとって・・・・・・確かにうれしかった。あの豚をこの手で殺して、血にまみれながら崩れ行く城を見ているときは、その時は確かにうれしかったのだ。その場で歓喜の声をあげたくなるほどに。

 しかし、終わってみればどうだ。何も感じない。復讐を終えて得たのは、この胸の内に感じる虚無感だけ。元の世界でも復讐物の物語はたくさんあった。その物語では、復讐を終えたものはたいてい虚しさを感じていた。私は決してそうはならないと思っていたのに・・・・・・。

 目を閉じて考える。この虚しさは何だ。この虚無感は何だ。この悲しみは何だ。私はいったいどうすればいいのだろうか。

 ガチャリと音を立てて扉が開き、誰かが部屋に入ってくる気配がした。

「ユージェス・・・・・・」

「・・・・・・なんだい? ブレイブ」

 閉じていた瞼をゆっくりと開き、私の隣に立つ男を見た。

「え?・・・・・・っ!!」

 ブレイブは私の顔を見ると、驚いたような表情でこちらを見て・・・・・・ぼろぼろと涙を流した。床に膝をつき、何かにすがるように私の手を取った。

「お、起きて、た・・・・・・ユージェスっ!!」

「そんなに泣くほどのことかな」

「馬鹿ッ!! お前はあれから7か月も眠ってたんだぞ!!」

「7か月も?」

「そうだよ!!」

 確か、この世界で一か月は30日だったはず。12か月で一年経つから、もう半分以上無駄にしてしまったのか。・・・・・・どうりでブレイブの姿に違和感を抱いたわけだ。ブレイブは前髪を後ろに流し、前よりも高価そうな服を身にまとっていた。

「馬鹿ッ、馬鹿ッ!! なんで早く目を覚ましてくれなかったんだよ!! 起きるのが遅いんだよ!!」

「・・・・・・そう、もうそんなに経っていたんだね」

「ああ、そうだよ。ユージェスが寝ている間にたくさんのことが変わった・・・・・・ユージェスに見てもらいたかったこともたくさん、たくさんあったのにっ!!」

 そう言ってブレイブは、私の手を握る力を強めた。

「・・・・・・生きててくれて、よかった」

「ブレイブ・・・・・・」

「あ・・・・・・みんなにも知らせてくるから、だから起きてろよ!!」

 ブレイブは袖で涙を乱暴に拭うと、部屋を出て行った。

 ・・・・・・『生きててくれて、よかった』、か。そんな風に言われるとは思わなかった。空っぽになった胸の中に、何か温かいものがともったような気がした。ああ、懐かしい。この温かさを感じたのはいつぶりだろうか。ああ、そうだ。師匠と一緒に過ごしていた時は、確かに感じていた。

 さて、これからどうしようか。体もろくに動けない。技の代償で身体能力が著しく低下している。時間がたてば回復するだろうが、いったいどれだけの時間が必要になるか。いつまでもここでお世話になるわけにはいけないだろう。そうだ、師匠に報告しなくては。今回のことを、これまでのことを。

「ふふ、まだ当分死ねないな」

 思い出したのは師匠からの手紙。あれにはまだ続きがあったのだ。封筒の中にはもう一枚紙が入っていた。それは、私がまだ師匠と出会った頃に撮った写真。その写真の裏にこう書かれていた。

『長生きして、たくさんのものを見てきてね。世界には綺麗なものがたくさんあるから』

 憎しみにとらわれ、復讐を誓った私はそれを忘れてしまっていた。師匠はずっとあの塔にいたから世界を見ることができなかったのだろう。ならば私が見て来よう。きっと、世界は綺麗なものばかりではないけれど、師匠が言うような綺麗なものもあるだろうから。そして、師匠に報告しようか。お土産を持って、師匠の墓の前でお茶を飲もう。私は話すのが苦手だから、めちゃくちゃな話になるかもしれないけれど、師匠は笑って許してくれるだろう。

「そうと決まれば、早く回復して体を鍛えなおさなくちゃね」

 師匠が驚くくらいうんと長生きして、綺麗なものを見に行こう。世界中を巡って。

 そう決意していると、どたどたと慌ただしい足音が聞こえてきて部屋の扉が乱暴に開かれた。我先にと部屋へ押し入ろうともがく男たち。どの顔も私が知った顔で・・・・・・

 私はその様子に笑ってしまった。みんなは起きている私を見て様々な反応をしていたが、皆口をそろえて『起きてくれてよかった』『生きてくれてよかった』と言った。


 私の中にあった虚無感はいつの間にかなくなっていた。


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