憤怒的鬼
しかし、
(なんだ、なぜオレの胸は熱くなるのだ)
と、不思議な熱さも感じてしまっていた。
「あなた」
「う、うむ」
朱家夫妻も、もうどうしていいのかわからない。娘を守ると、辰の公主が言うなどほんとうに思いもよらぬことである。
「よおよお」
挟み込むように口を開いたのは源龍である。面倒くさそうにそっぽを向いたまま。
「なんならオレが全部の泥をかぶるからよ、その光燕世子を始末してやろうか?」
などと、暁星の者が聞けば驚いて腰を抜かすようなことを平気で言ってのける。
羅彩女は何を言うんだと驚いて、何か言おうとしたが。
「たわけッ!」
刹那に瞬志が大喝する。
「オレが、万一の時に、誰かに泥をすべてかぶせて安堵するような卑怯者だと思うのか!」
これまたとんでもないことを言ってのける。
「はっ、いいとこのお坊ちゃまが、かっこつけるじゃないか」
「見くびるな。オレはお前が大嫌いだが、だからと言って人を利用し捨てるような真似はせぬ」
「武人の矜持、ってやつか」
「そうだ」
源龍は顔を瞬志に向け、睨み合う。
両者の間に火花が飛び散りそうだ。
源龍は「ふっ」と不敵に笑う。
「まあ、とりあえずその言葉信じてやらあ。万一の時に忘れるんじゃねえぞ」
「忘れはせぬ」
「あ、あの、それで私はどうすれば」
恐る恐る両者の間に入って、麗は己の身の置き場を探る。
「麗はここにいて、守ってもらいなさい。朱家の屋敷までの道でも、外出は危なかろう」
そう、瞬志が言い。夫妻に対しても、
「娘さんは、我らに任せてください」
と、やや強引に押し切り。夫妻は思わず頷いてしまった。
もちろん他の兄弟姉妹もいるのだが、それにも秘密である。両親は、せめて少しでも長くと悲願の再開を遂げた娘と一緒にいることを望んで。
個室をあてがわれて、そこで親子水入らずの話をすることになった。
他の面々も、お開きとそれぞれ召使いに用意された部屋に案内される。
広い屋敷といえど、部屋が無限にあるわけではない。相部屋である。源龍と公孫真、香澄と羅彩女、子どもとリオン、というふうに。
武具をはじめとする荷物一式も、それぞれの部屋に置いてもらえた。瞬志は武器を持たせることに反対であったが、父が決めたことなら仕方ないと、不承不承と承知した。
劉開華はさすがに個室があてがわれた。無論護衛を兼ねた見張りも。
貴志も自分の部屋に戻ったが。その時に、
「沙汰があるまで神妙にしていろよ」
と兄に釘を刺され、苦笑しながら「わかってますよ」と頷いた。




