憤怒的鬼
(頼りない人と思っていたけれど、話は一貫している。他の方たちも貴志オッパを仲間だと認めてるようだし。なんだかんだで信用していいのかしら)
麗は貴志を見直し始めていた。
瞬志は場の空気を読んで、落ち着き払った態度で成り行きを見守る。
「それにしれも、天頭山教……」
成花は頬に手を当てて考え込む。天頭山教は天頭山を神と崇める土俗信仰であることは知っているが。それほど大きな宗教団体というわけでもないし、おかしな話も聞くわけでもない。
それが、うら若い娘を人身御供の生け贄にしようなど。
「あなた、私はなんだか嫌な予感がします」
「嫌な予感?」
「はい。光燕世子と天頭山教が裏でつながっているとか」
「これはまた、突飛なことを」
「でも、人身御供も辞さぬ邪教と、人を人とも思わぬ乱暴な世子、利害が一致すれば手を組むことも考えられるのでは」
「ふうむ」
妻の思わぬ言葉に、伝道は思案をめぐらせる。
「麗さんも、しばらく李家の屋敷に置いていた方がいいのでは」
そう言うのは貴志だった。
「おい、貴志」
「でも兄さん、僕はその方がいいと思うんです。世子は麗さんがいることを知れば、必ず手を出してくるでしょう。それに、成花お母さまが言う通り世子と天頭山教につながりがあったら、命じられた信者が何をしてくるか」
「万一のことがあっても、お前たちが守るというのか」
「そうです。僕は頼りなくとも、源龍をはじめとするこの人たちは武芸の腕も一流。公主も武芸に秀で、師匠の公孫真さんをしのぎ、青藍公主と呼ぶに相応しく」
「お前、公主に麗の護衛をさせるのか!」
瞬志はふざけるなと怒りをあらわにし。貴志も、しまったと迂闊さを悔いた。源龍は面倒くさそうにそっぽを向いている。
「はい、万一の時には麗さんをお守りします!」
劉開華は瞬時に立ち上がって、瞬志に言った。
瞬志に朱家の親子は目を丸くして面食らった。辰の公主が暁星の臣下の娘を守ると言うなど、身分上の礼儀作法にもとるではないか。
「公主、お立場をご自覚あそばされよ」
相手が公主といえども卑屈にならぬ瞬志である。こちらも立ち上がって、思わず注意をかましてしまった。
この突飛な展開に、朱家の親子はおろおろするばかり。
「辰は周辺諸国に朝貢をさせる代わり、危機においては援軍を出すなどの支援もいたします。それと同じと思っていただければ」
「な……!」
この「へ」もついてもおかしくない理屈に、瞬志もさすがにあきれ果てた。深窓にあるべき身であるのに、伊達に国を出たわけではないと。




