憤怒的鬼
円卓とはいえ位置により上座下座と決まっており、北側の椅子に劉開華が腰掛け、その右に公孫真。その隣に太定。そのまた隣に瞬志。そこから貴志、麗と座り。
劉開華の左側に諸葛湘。そこから源龍、羅彩女、香澄、子ども、リオンの順に座った。
円卓は広く、ひとりひとりに十分な幅が与えられて。ゆっくりくつろげる。
召使いの女性がそれぞれに茶を出し、前に置いてゆき。一礼をして下がってゆく。
「急なことゆえ、簡素な出迎えになり、申し訳ありませぬ。また妻はまだ容体が優れぬということで」
太定がうやうやしく口上を述べ一礼をする。それに瞬志と貴志、麗に香澄、諸葛湘も続く。が、他の者は半ばぽかんとしてその様子を眺めていた。
「お前たち、辰国公主に対し無礼であろう」
瞬志が咎めるが、
「かまいません。この方たちは……」
と言おうとしたが、公孫真は首を横に振って。やむなく口をつぐんだ。
「源龍たちも、公主に礼をして」
香澄が促し。言われた通り源龍たちも一礼をする。特に羅彩女は源龍の手首を抑えて、自制を促す。さらに、香澄は名乗りをあげ。他の者たちも続いて名乗る。
(そうか。お姫さまだもんね)
私情を捨てて、彼女は公主としての振る舞いを徹底せねばならない。他の者も、礼を尽くさねばならない。そうしなければ、一同の身が危ないことになるからだ。
劉開華もぎこちなさそうにしていたが、徐々に公主として威厳ある振る舞いをするようになって。高貴の血筋として育まれた素性の良さが、いい意味で醸し出されていた。
(暁流に夢中の、まだまだあどけないおひいさまが)
複雑ながら、自由を求めながら結局は公主に戻ることになった弟子に、憐憫の情を覚える。
すべては自分たちを助けたいがために。
「しかしなにゆえに辰の公主ともあろうお方が、暁星に来られたのでしょうか?」
うやうやしくもその心をさぐるように訊ねれば。お人払いをと言われて、その通り召使いら主要な人以外下がってもらったうえで、劉開華はこれまでのいきさつを正直に語り。
(何の話しをしているのか、さっぱりわからん)
太定は内心面食らった。
諸葛湘も同じだった。公主は気が触れたのかとさえ思った。ただ、皇帝皇后の了解を得て国外に出たのではなく、自分で勝手に出たというのはわかった。また他の者たちも偶然出会って行動を共にするようになったと。
しかし、人食い鳳凰に空飛ぶ船など、にわかには信じがたい話である。
(それでも、世界樹のことは黙っていた方がいいかな)
と、世界樹の導きといった話はしなかった。子どももリオンもそれでよさそうな反応だ。




