表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幻想小説 流幻夢  作者: 赤城康彦
9/539

秋水長天

「まあ、世界樹が導いてくれるさ。何か聞こえなかったかい?」

「そう言えば……」

 脳裏に声が閃いたが。

「それは世界樹の声だよ。従うも従わないも、源龍さんの自由だ」

「ふん、従わなけりゃ、虎炎石みてえになるんだろう。自由じゃねえよ」

 と言いつつ、あれこれと男児と話をしても、結局は全然わからなかった。

 世界樹とは、世界樹の子どもたちとは。

「そんなことはどうでもいいじゃないか」

 源龍の迷いを察して、男児はいたずらっぽく言う。

「それより、香澄が待っているよ」

「香澄!?」

「じゃあね」

 子どもたちは泣きべそをかく虎炎石をともなって、源龍から遠ざかり。霧の中に溶け込むように姿を消していった。

 源龍は打龍鞭を担いで追おうとしたが。突然足元の感触がなくなって、何か大きな穴の中へと落ちゆくような落下感に襲われた。


「……うーん」

 固く閉ざされた目を開けようと、瞼に力を入れて開けば。

 秋の空と海とが交わるような秋水長天が眺められた。

(オレもあれと同じ……)

 ふと、そんなことを考えた。

 はるかかなたの水平線、空と海とがまじわり一緒になるかのような。そのように、己の生も死も、夢もうつつも、一つの線としてまじわったような、不思議な感触。

 源龍はゆっくりと上半身を起こし、胸に触れたが。あるはずの傷がない。

(馬鹿な、オレは香澄の七星剣に刺されて)

「私はなにもしていないわ」

「何ッ?」

 香澄の声を聞き、源龍は素早く起き上がった。ふと、足元には打龍鞭があって。素早く拾い上げる。

 その姿が少し滑稽に見えて、香澄はいたずらっぽく微笑んだ。

「少し強いところを見せたら、刺されたと思い込んでしまうんですもの」

「何? じゃあ、世界樹は? この打龍鞭は?」

「すべては世界樹のお導き。私ごときがわかる話ではないわ」

「世界樹。お前も知っているのか」

「そんなことは、どうでもいいじゃない」

 香澄はあの男児のようなことを言う。

「でも私とあなたが出会ったのも、世界樹のお導き」

「……」

 源龍は打龍鞭を肩に担いで、無言のまま。もはや声を出す気も失せた。

「ゆきましょう」

「ゆく、って。どこへ」

「とりあえず、最寄りの町まで。そこで休んで。明日の事は明日考えましょう」

「……。よくわからねえが、どうせ逃げられねえんだろう、ついていってやるよ」

「ありがとう」

 香澄は愛嬌のある笑みを見せて、歩き出し。その少し後ろ、源龍は打龍鞭を肩に担いでついてゆく。

 とりあえず、明日の事を明日考えるための宿まで、ともに歩いた。


秋水長天 終わり

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ