憤怒的鬼
今は武装は解いて平服である。貴志や香澄に説得されてのことだ。そんな源龍は、初めての港に興味を覚えたようだ。
「源龍、あんたほんとに内陸ばっかりうろついてたんだねえ」
「まあな」
「そこ、私語はつつしむように」
瞬志が咎め。源龍はあからさまにムッとした態度を見せて、口をつぐみ。羅彩女ははらはらする。
ひとまず詰め所まで連行されて、一行は男と女子どもに分けられて、それぞれ一室に閉じ込められたが。人もつけられ、なんやかやで身繕いに食事や着替えの面倒を見てもらえた。
これもやはり劉開華効果だろうか。羅彩女と香澄、麗に子どもとリオンは手を合わせていたく感謝したが。
「やめてよ、今まで通り仲間……、友達として接して」
と、劉開華は言う。
「友達?」
羅彩女がきょとんとして聞き返す。
「……うん。私は、公主として配下なんかいらないわ。ひとりの人間として、友達がほしいの」
「公主だと、友達ができないのかい?」
「うん。皆、変にかしこまってね。だから、今が一番、幸せ」
それを聞いて、彼女が公主としての立場を窮屈に感じていたことを知った。闊達だが変わり者だとと思っていたが。
「それにね……」
この機会にと、兄の邪恋に悩んでいたことも話した。
「そんなことが」
と、羅彩女と麗は唖然として。香澄は静かに聞いて、その辛さを汲むように頷く。子どもには刺激の強い話だったようで、ふたりとも気まずそうにそっぽを向いて、また劉開華を見つめて。
「大変だったね」
と、ねぎらう。
「お兄さまのことも、なんとかして助けて。良いお医者様に治してほしいのだけれど」
言いながら、大粒の涙がこぼれだす。今まで抑えていたものが、話をすることで抑えられず溢れて来た。
「お姫さまってのも、大変なもんなんだねえ」
劉開華は抑えられず泣き出し。麗にしたように、羅彩女がよしよしと抱擁する。
世子に迫られて思い詰めた麗も、他人事ではない。同情して、こちらも思わず涙する。
香澄と子どもたちは向かい合って、頷き合って。静かに成り行きを見守った。
一方、男たちと言えば。陸地で、整った寝床で、久々の安眠を貪っていた。
翌朝、馬車が用意されて。それに乗せられて、漢星を目指すことになった。所有物も荷車に乗せられて一緒にゆく。
船は港で接収である。
港は漢星に一番近い港だったので、一日の旅で到着した。
平野部が多く山も低く、道も整備されて。快晴もあって、旅そのものは快適であった。途中の関所で一泊し、翌朝出発して、昼ごろに到着。
早馬の伝令を出していたので、城門の警備兵は「どうぞ」と通してくれた。
「これが、漢星」
公孫真は暁星の都の賑やかさに目を見張った。




