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幻想小説 流幻夢  作者: 赤城康彦
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憤怒的鬼

 煮え切らぬ弟の態度に苛立ちを覚える。が、それを胸の内に秘め、優しい兄として話を聞いてやる。

「オレはもう宮仕えはやめたい」

「なんじゃと?」

 不覚にも一瞬石のように固まってしまった。弟も自分と同じように栄耀栄華を求めていると思っていたのに。

「あの気の狂った皇太子を見張るのはもううんざりだったが、宮殿の官人の冷たさにも、うんざりだ。あんな窮屈なところは、もういやだ」

 まさか、と思わざるを得ない発言が弟の口から飛び出し。鄭拓は取り柄の頭の切れが失せた感覚に襲われた。

「俗っぽくてもいい、オレは江湖でのびのび生きたい」

 とまで言う。

「兄者、所詮我らは下賎の出。いくら身を飾ったところで、官人どもの冷たい目つきは変わらぬよ」

 人の世にはただでさえ差別があり、宮殿も差別はあった。高貴の出であるという王侯貴族の意識は、即ち身分の低い者への差別意識となり、人として見、扱うことをしなかった。

 鄭兄弟は身分の低い市井の庶民の出であったが、兄鄭拓は才覚があり科挙に合格し役人になってからその才覚を存分に生かし、ついに皇帝皇后の目に留まって宰相にまで上り詰めた。

 皇帝皇后を立て、国を安んずることを最優先して政に取り組んだ。と言えば聞こえはいいが、所詮皇帝皇后も人であることを見抜いて、上手くその心理を利用してきたのだ。

 人である以上、皇帝皇后が苦手とする臣下もいる。それを密かに排し。さらに下って民に不満高まれば、蔵を開けさせ、恵みを施し。さらに見世物など娯楽の提供もした。

「遥か西方の大国には、パンとサーカス、という言葉があるそうです」

 パンとはその西方の大国の食べ物のことで、サーカスとは見世物などの娯楽を指す言葉であり、それらを民衆に提供すれば王家や国は安泰であるとされる、という話を鄭拓は皇帝皇后にしたことがあった。

「そなたはよく学び、よく働くな」

 こうして皇帝の歓心を買うことに成功し。鄭拓の政策は採り入れられて、辰は東方の大国として君臨した。

 その裏で、「下賎の出のくせに」という軽蔑を向けられているのは、鄭拓も感じてはいたが。さらにその裏に回って、手を打って、自分を守ってきたものだった。

 が、弟はそれをする気がないという。

 ふと、人食い鳳凰のことを思い出した。あの鳳凰は、突然宙に浮かんだ「天下」の字によって破裂して消え去ったと聞いた。

「天下に食われる」

 という言葉も聞いた。

(天下が人を食らうなど。馬鹿げたことを)

 取り合うことはなかったが、弟はそういったことを感じ取ったのかどうか。

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