表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幻想小説 流幻夢  作者: 赤城康彦
81/539

嵐将携帯

 こんな酔狂な戦士を相手にして、無駄に傷つくことはない。と言いたいが。瞬志もまたひとりの戦士である。この男と戦ってみたいという、戦士としての願望がにわかに湧き起こり。それを抑えるのが一苦労であった。

 それだけに、その心情を逆手に取ることにした。

「抵抗をせねば、こちらも何もせぬ」

「それなら」

 香澄は腰に帯びた七星剣を甲板に置いて跪いた。劉開華と公孫真の師弟と、羅彩女に麗、船酔いがまだしんどい子どもらまでもが跪いた。

 なんだよと源龍は拍子抜けし。いじけたように胡坐をかいて座り込む。

「に、兄さん。どうか寛大に」

 胸倉をつかまれたまま、貴志はか細くも声を出し兄に寛大さを求めた。

「あの……」

 跪いた少女が背をかがめて半立ちになって瞬志のもとまで来て、何かを差し出した。それを見て、全身が凍り付く。

 それは「辰国公主」と刻まれた璽だった。つまりそれを持っているということは、この少女は辰の公主かもしれなかった。

 真偽のほどは知らぬが、辰の公主を跪かせたとあっては国際問題になりかねぬ。

 瞬志は貴志から手を放した。

「これは」

 咄嗟に暁星の言葉が出たが、すぐに気を持ち直して辰の言葉を話す。

「あなたは、この璽は」

「見たとおりです」

「真偽のほどは」

「漢星に辰の大使がいるでしょう。諸葛湘しょかつしょうという者が。その者と会わせてください」

「ううむ」

 思わず唸った。彼女はほんとうに辰の公主かもしれない。言われた通り諸葛湘という者が辰から派遣されて、漢星に滞在している。何度か会ったことがあるが、可もなく不可もない役人で無難に仕事をこなしている印象を持っている。

「将軍」

 部下が案じて声をかける。それに気付き、瞬志はためらいを捨てた。将軍としての示しをつけねばならぬ。

 貴志は静かにたたずんで、成り行きを見守る。

「いかなる訳があるか知らぬが、ひとまず我らとご同行願おう」

 瞬志は部下に命じて、船に縄をかけさせ、曳航して港に戻ることにした。

「お前たちは、我らとともに亀甲船に乗れ」

 そう言われて、貴志と麗は瞬志とともに亀甲船に連れていかれた。立場上逆らえないが、麗は麗で乗り気で亀甲船に移った。

 船には瞬志の部下の武士ムサが五名、縄をかけた船首にいる。見張りのためだ。にわかに逆らい、縄を解いたり切ったりさせないために。

 源龍は歯軋りさせて戦いの機会を望んだが、他の面々、特に香澄がその手を掴んで首を横に振って。舌打ちしてあからさまにつまらなさそうにして、座り込んでそっぽを向いた。

 その一方で、亀甲船では貴志と麗は船内の瞬志の個室に入れられて。瞬志に睨まれて。

「なぜお前たちもあの船にいたんだ?」

 と厳しい口調で訊ねる。麗は怖そうにしつつも、なじみのある人のそばは安心するのか、落ち着きを幾分か取り戻していた。が、貴志の緊張は解けない。

 しかし、下手に嘘もつけない。ままよ、と貴志はこれまでのいきさつを語った。

「……?」

「こんな時に人をからかうな!」

 話を聞いて、麗は呆気に取られて、瞬志は烈火のごとく怒りを示したのは言うまでもなかった。それに加えて。

「昨夜の嵐ごときでひどい船酔いとは、情けない」

 とまで言う。海に生きる者にとっては、昨夜の嵐はまだまだおとなしい方だった。


嵐将携帯 終わり

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ