秋水長天
あの緑の服をまとった、様々な姿の子供たちが何の脈略もなく白い霧から浮かび上がるようにして姿を現したから。
源龍は、
「はあー?」
と、素っ頓狂な声を上げてしまった。
しかも、素っ裸の男児がいるが。これは初めて見る顔だ。だが、どこかで見たような気もする。
「……虎炎石!」
そうだ、顔の形や目つきからして、虎炎石だと源龍はさとった。
別の子供が、用意もよく服をもってきて、子供にかえった虎炎石に着せる。
「ここはどこだ? おいらは、誰だい?」
「そんなことは、どうだっていいじゃないか」
子どもにかえった虎炎石は記憶をなくしているようだった。それを金髪碧眼の男児がなだめる。
「君はこれからの君で生きていけばいい。名前も追々考えたらいい」
「……そうだな、そうしよう」
「なんだこりゃ……」
源龍は目の前で起こっていることが理解できない。金髪碧眼の男児はにこりと笑って源龍に語る。
「虎炎石は僕の言いつけを守らなかったから、子どもにかえったんだよ」
「言いつけ?」
「戦場で死んだ彼は、死んでも死にきれないようだったから。魂を世界樹まで導き、打龍鞭をあげた。その代わりに」
「その代わりに?」
「己に負けて悪心を起こせば、打龍鞭に見切りをつけられて、新たな持ち主のところへ行かれる。虎炎石は、一切の記憶をなくし、子どもにかえる」
「よくわからねえが、オレも悪心を持てば」
「同じことになる。虎炎石は、力を持ち、軍まで持つようになり、戦に明け暮れるようになってしまった。数多の命を奪い取った。その罪万死に値する」
「それが餓鬼にもどるってなあ、ゆるいんじゃねえか?」
「いや、子どもに戻るってのは、死より辛いことかもしれないよ。虎炎石みたいに力の虜になってしまった者にはね」
「……」
子どもにかえった虎炎石は、突然しくしくと泣き始めた。他の子どもがなだめても、泣き止まない。
「どうしちゃったんだろう、やけに悲しい。涙が止まらない」
その姿を見て源龍は思わず、あんな風になりたくないと思ってしまった。
「そういうことだね。無意識のうちにある罪悪感が、小さな体を責めるんだから」
「で、お前らは?」
「なんだい?」
「なにがしてえんだ?」
「特に意味はないよ。気まぐれだよ」
「気まぐれ……」
「名前も別にない。しいて言えば、世界樹の子どもたちかな」
「今度はオレに打龍鞭を持たせて、どうするつもりだ。やることがあるとか言ってなかったか」
「あると言えばある」
「曖昧な言い方するな」