嵐将携帯
「……そうか、お前は留学してるはずだからな。ここでぶらぶらしてるのが見つかったら、ただじゃ済まねえな」
「あ、船が見えるわ」
劉開華が指差す先に、確かに船が見える。こちらに気付いてやってきているようだ。
その姿は変わった形をしており、船の上は船橋ではなく丸みを帯びて、まるで亀の甲羅のようなものが乗っている。
それを見て、貴志の顔はますます不安そうに力が抜けていった。
「なんだありゃ?」
「変な形だねえ」
「ほんと、変なのー」
源龍と羅彩女、子どもたちは不思議そうにするが。劉開華と公孫真に麗は、貴志と同じように不安そうな、警戒した顔を見せる。
その様子を察して、源龍は、
「あれが水軍の船か」
と言うと、貴志は頷いた。
「亀甲船っていう、軍用船だ」
丸みを帯びた形は亀のようで、亀甲船と呼ばれるようになった。大きく、膨らんだ甲羅には鉄甲を張り巡らせて。側面は矢を放つための窓が並ぶ。
頑丈に作られているので、海戦において相手の船に体当たりをしてそれで転覆させることもあるといい、また転覆しなかったとしても接舷させて兵が乗り込む。
聞いた話ですがと前置きして公孫真は簡単に亀甲船について話し、貴志に間違いありませんかなと問えば。
「その通りです」
と頷く。
見れば、甲羅の上に旗が立っている。
その旗は、白地の布に赤い翼虎をあしらった旗だった。翼を広げ後ろ足で勇ましく立つ翼虎は、今にも飛び出しそうなほどに生き生きと描かれている。
「翼虎の旗。兄の船だ」
貴志は天を仰いで、右手で目を覆った。
「瞬志オッパ!」
貴志の落ち込みとは対照的に、麗の顔がぱっと輝く。
羅彩女はそれに気付いて。
(ははあ。貴志の兄貴に惚れてんだね)
彼女の様子をうかがい、苦笑してひとり合点する。
「リオン、船を動かせないか?」
「……うーん、ごめん。力むと吐きそうで」
船酔いから回復しきっていないリオンはにわかにへたりこんでしまった。子どもも、僕もまだ、と言って隣で同じようにへたりこむ。
帆も香澄が切り裂き、風に乗ることはできない。潮流には乗っているが、操船できなければ当てもなく漂うだけだ。
「ど、ど、ど、どうしよう」
貴志は青ざめた顔で狼狽するばかり。留学をしていたのがなぜここにいると問い詰められる様を想像して、身体まで震える始末。
一同は貴志の有様に苦笑するしかなかった。が、ここで捕らえられたら、どうなってしまうのか。
(もう、仕方がないわね!)
劉開華は覚悟を決めた。




