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幻想小説 流幻夢  作者: 赤城康彦
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嵐将携帯

 空中で落下しざまに香澄はそれを見守って。うまくいったとずぶ濡れで微笑んで。着地した。

 波による揺れは相変わらずだが、風による揺れは収まり。これで被害は最小限度に抑えられるはずだ。

 香澄は剣を鞘に納めて、ふと、何かを閃いて、何かをしてから。

「これでよし」

 と、揺れが少しましになった甲板を歩いて船室に戻った。

 無事船室に戻った香澄を見て、一同はただただ感心するばかり。船の揺れもましになったのでなおさら。

「さすがですな。一体どのようにして武術や体術を会得なされたのですか?」

「ごめんなさい、それは秘密なの」

 香澄は申し訳なさそうに微笑んで、公孫真の問いをはぐらかした。とはいえそんな香澄でも嵐で濡れ鼠になるのは避けられなかった。

 劉開華は船酔いを堪えて歩み寄って、別室で着替えるように言う。

「すごいわあなた。ほんとうにすごい」

 彼女は香澄に感心を通り越して感銘すら受けていた。

(でも、着替えはあとどれくらいあるかしら?)

 余分に持ってきているのだが、この調子ではすぐになくなってしまう。なにより、濡れた服を干そうにも物干し台がなく。やむなく丸めて、ひとまとめにしている。替えの服も、なるだけ多めにするために簡素なものばかり。

 そうした服の手入れの準備までできなかったのは、盲点であった。

 劉開華は一緒に倉庫にゆき、着替えに付き添って。船室に戻ってきた。ましになったとはいえ、揺れに揺れて。壁に手を当てて体勢を保たなければならなかった。が、船酔いの吐き気はひどく。

「ごめんなさい、もうだめ」

 と顔は青ざめて、香澄によりかかった。

 しかし嫌な顔一つせずに微笑みを浮かべ、首筋に手刀を当てると。劉開華はそのまま意識を失った。それを抱きかかえて、船室に戻って。公孫真のそばで横たえてやる。

「お世話をするつもりが、逆にお世話になってしまって」

 手刀を当てて気絶をさせたことで、しばらくは船酔いの不快感から逃れられる。公孫真は香澄にいたく感謝した。

「……。まったくたいしたもんだよ」

 羅彩女は横たわったまま顔だけ香澄に向け、感心の言葉を述べる。

 麗は無言で横たわり船酔いをこらえている。子どもたちもだ。

 船酔いも横になって頭を動かさないようにすれば、ましになることを、一同会得して皆で船室で雑魚寝状態だ。

 香澄だけが平気で、瞑想をするように瞳を閉じて座した。

 雑魚寝する面々は、早く嵐が収まることを祈りながら待つしかなかった。

 天湖にいる時は高々と登っていた太陽も霧と雲に隠されて。嵐が下界を覆い。その間に船は天湖から海に降り。

 太陽も隠されたまま沈んで、夜の帳が落ちて。同じように雲に隠されたまま星々や月が空にのぼった。

 その星々と月も、太陽が昇り空が白みはじめると溶けるように姿を隠した。暁にひときわ輝く星も、同じように溶けるようにして姿を隠した。

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