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幻想小説 流幻夢  作者: 赤城康彦
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嵐将携帯

「帆が張りっぱなしじゃないか」

 貴志はそのことに気付く。強風にあおられて船はゆらゆら揺れるが、帆を張りっぱなしなのも一因だ。空を航空する際に帆を張るのは欠かせなかったが。嵐の海では、禁忌である。

「畜生。船酔いになってなけりゃ帆をしまうんだが」

 源龍ですらまいって横になる有様。船自体は乗ったことはあるにはあるが、海ではなく大河での乗船で。天気が荒れてもここまでは揺れなかった。さすが海は大河とはわけが違った。

 しかしこのままでは、帆が張り裂けるか、それならまだいいが、張った帆が強風を受け船を陸地から遠ざけてしまうかもしれない。

 聞いた話ながら、四方八方陸の見えない大海原は慣れぬ者には生きて帰れるかどうかわからない恐怖でしかないそうだ。

「ごめんなさい、僕ももうだめだ」

 リオンも船酔いでまいって、操船どころではなさそうだ。それでも、幼い身でよくやったものである。が、それはそれ、これはこれ。リオンがへたばれば、どうやって陸にゆけばよいのか。

 船は揺れる。帆を張ったままでは、どのように煽られてしまうのか。ともすれば転覆しかねないほどに揺れる。

「イチかバチかだけど」

「なんだ香澄」

「私の剣で、帆を切り裂くわ」

 瞑想の格好のまま、香澄はそんなことを言ってのける。帆を切り裂けば風にあおられるのも少しは収まるだろうが、嵐が収まった後でどのようにして船を風に乗せ進めるか。まさにイチかバチかだった。

「全てを世界樹と君に託そう。頼むよ、阿澄(澄ちゃん)」

 それに賭けるしかないと判断し、貴志は絞り出すような声で言い。香澄は微笑んで頷き。立ち上がって、また船室から出る。

 船は波にもまれて揺れる。雨粒や波しぶきも強風に煽られ、帆と対峙する香澄に叩きつけられる。しかし、あどけなさを残すその顔つきは鋭く。愛剣の七星剣を抜き放つ。

 船は揺れる。

 香澄は体勢を保ってふんばり。

 意を決し。揺れる船の上で跳躍する。

 その跳躍の高さは尋常ならざるもので、彼女の身体の何倍もの高さに跳躍したのだ。まこと人であるのかと疑うほどに。

 そして、強風に煽られる帆めがけ、剣をほとばしらせる。丁度その時、稲光がし、夜闇の嵐の中の香澄の姿を浮かび上がらせた。同時に雷鳴も轟いた。

 この様をもし人が見れば、嵐の化身として天女が降臨したかと思わせるほどに、香澄の姿は勇ましかった。

 帆は裂け目ができ、風を通し。帆は風の力を受け止めきれなくなり、裂け目はさらに伸び。ついに帆そのものが避けた。 

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