嵐将携帯
「僕は夢があるんだ。世界樹よ、落ち死んでも生き返らせてくれ!」
(え? 貴志オッパまで何を言っているの!?)
いったいこれはなんなのだろう。自分は悪い夢の中に迷い込んだのか。虫も殺せぬお人好しだが学問をおさめ良識ある貴志までが、そんな世迷言を言うなんて。
「ど、どうなるんだろう?」
子どもは香澄にしがみつき。リオンもそのそばにいて必死に船を飛ばす。
がたがたがた! と突然船は強く揺れた。それでも香澄は泰然自若として騒がずにいる。なかなか肝の座ったことだと、公孫真は感心する。さすがの人生経験豊富な堅物でも、これは心底怖い思いをしているのに。
「今どこにいるのかわかれば」
「……待って、外の様子を見に行くわ」
香澄は揺れる船室内で上手く体勢を保って立ち上がって、外に出てゆく。外は雨が叩きつけ、風が吹き飛ばさんがばかりに吹き荒れる。香澄はそれでも一歩を踏み出し、甲板を歩く。
船も揺れる。それでも体勢を崩すことなく、軽やかな足取りで船縁まで歩き。下界を見下ろし。うんと頷いて船室内に戻る。
さすがに濡れ鼠になってしまうのは免れなかったが、よく戻ってこれたものだと驚く一同に笑顔を向けて。
「今海の上にいるわ」
と言えば。リオンは承知と、手を合わせ力を込めて唸るように何かをつぶやけば。体が床から浮きそうな感覚がする。船が高度を下げているのだ。
しばらくして、ざあざあという、波の音が聞こえてきた。香澄の言う通り、海に出ていたのだ。
「なんか耳が、ぷくー、っと中から膨れるみたいな感じが」
劉開華は耳の違和感を訴えた。他の者たちも同じように、耳がなにかなっていると感じた。
「ああ、それは、高い山から一気に下りるとなるみたいだね。しばらくしたら治るそうだから、心配ないよ」
皆の期待に応えて、貴志は書で得た知識を披露する。
という時に、船の揺れ方が変わる。空で風にあおられる揺れから、明らかに海の波の揺れ方になった。
「海に着いたな」
これで落ちる心配はなくなった。しかし、船は上に下に大きく上下に揺れて、一同一気に気分がおかしくなって、横にならざるを得なかった。
「な、なんだこの、気持ち悪いのは」
「吐きそう……」
「皆さん、これが船酔いというものです」
今度は公孫真が豊富な人生経験から皆に教える。しかし感謝の言葉はない。それどころではない。
香澄は相変わらず泰然自若だが、揺れには勝てないかさすがに壁にもたれて座って、瞑想するように瞳を閉じている。




