表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幻想小説 流幻夢  作者: 赤城康彦
70/539

嵐将携帯

 単純に人身御供であるという発想だった。それも現実逃避のために。

「朝星半島の人たちにとって天頭山は象徴の山でもあり、なぜでしょう」

「ぶつぶつうるせーなー」

「おや、起こしてしまいましたか」

 寝ていた源龍はぶつぶつ文句を言って、睡眠妨害に抗議する。その一方で、子どもたちはすやすや寝ている。

「ったく、たいしたもんだぜ」

「良い大人になりそうですな」

 源龍は苦笑するが、子どもの寝顔を見て貴志と公孫真は微笑む。公孫真はかつて結婚し妻がいたが、病により先立たれてしまった。子どももいない。再婚もしないので、独り身のままだった。

(彼女が死ななかったら、私はどんな父親になっていたのだろうか)

 ふとふと、そんなことを考える時もあった。

「ん?」

 屋根を叩く音。雨だ。雨が降ってきて、屋根が音を立てる。

「水瓶を!」

 男たちは立ち上がって、水瓶の水を補充しようとする。水瓶は船室の外、倒れないように壁に縄で括り付けられている。異物混入を防ぐために蓋もされている。その縄を解き、蓋を外すのだ。

「こりゃ土砂降りだ!」

 滝のような雨であった。あっという間にずぶ濡れになりながらも縄を解き、蓋を外し、すぐに船室に入った。

 水瓶は三つ、大人の男の胸まで届くような大きなもので、それに水を湛えていたが。それも辰の宮殿を出てから少なくなっていた。なるだけ我慢して飲まないようにしていたが、それでもである。

「これでしばらくしのげますかな」

 船室に戻って、服を脱ぎ身体をぬぐい、新しい服に着替える。言うまでもなく辰の服である。

「リオンに言われて生活用品一式を載せていて正解でしたな」

 最初完全に疑っていたが、今はリオンを認め感謝せざるを得ない。

「とは言え、いつまでここにいなきゃいけねえんだ?」

「うーむ、そうですな……」

「まあ、世界樹のお導きがあるんじゃないかな?」

 人知を超えた世界樹のお導きは、自分たちに何をもたらすのか。予想もつかない。とかなんとか語り合っていると。

「ん、船が?」

「揺れてんのか?」

「雨で天湖が増水して、ですかな?」

 にわかに船がゆらゆらと揺れ出す。普段は静かな湖面の天湖だったが、大雨が降って湖面が叩きつけられたことにより、浮かぶ船を揺らしているのだろうか。

「きゃあああ!」

 けたたましい女の悲鳴が壁ごしに響く。麗の声だった。

「こ、怖い!」

 一番年上で頼りになりそうな羅彩女に抱き着き、ぶるぶる震えていた。

「大丈夫だよ、雨で船が揺れているだけさ」

 羅彩女は苦笑しながら抱き着かれているが、無理に押しのけようとはしなかった。劉開華と香澄は顔を見合わせて、微笑み合った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ