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幻想小説 流幻夢  作者: 赤城康彦
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秋水長天

「お前、それを持てるのか」

 武将は苦々しく言う。源龍には何を言ってるのか要領を得ない。

「つべこべ言わずに、逃げたらどうだ。こいつで頭をたたき割られてえのか?」

「ふん」

 鼻で笑う武将。源龍は少しきょとんとする。

「オレはもう終わりだ。そいつが、打龍鞭だりゅうべんが新たな持ち主を得ればな」

「何の話だ?」

「知らぬのか」

 打龍鞭というのは、この硬鞭の名であろう。なるほど龍すら打ち殺せそうな業物の硬鞭ではあるが。それが新たな持ち主を得るとは、どういうことであろう。

「思えば、一介の名もなき兵士であったオレの前に世界樹の餓鬼どもが現れて。その打龍鞭を渡した」

「何? 世界樹、餓鬼ども、だと」

「それは知っておるか。ならば、おぬし、一度死んでおろう」

「どういうことだ。お前も会っているのかあの餓鬼どもに」

「ふ、ふふ。死して蘇ったオレは、授けられた打龍鞭の力でのし上がった。軍を持ち、欲望のままにいくさにひた走ったが。ふふ、己に負けた報いよ」

「何の話だ、おい、わかるように言え!」

 武将は、ふん、と鼻で笑って。にやりとほくそ笑む。

「オレの名は、虎炎石こえんしゃく。鞭を得て、力に食われた哀れな男よ」

 武将、虎炎石は不気味に笑う。戦況は一変して、威勢のよかった攻め手はところどころで城兵に追い払われて、尻尾を巻いて逃げるばかり。

「てめえ、いい加減に……」

 虎炎石は何かを知っていながら、わざと話さない。その意地悪さにしびれを切らし、源龍は打龍鞭を振り上げ、虎炎石の頭をたたき割ってやろうと迫った。

 が、しかし。

 突然足元の地面から霧が湧いて出て、あっという間に周囲を白く染めた。

 人が人をむような、阿鼻叫喚の戦場の地獄絵図はすっかりと白い霧に包まれて。人の声ばかりが轟きわたる。

 源龍の目にはかろうじて虎炎石の姿が見えるのみ。

「これは」

「世界樹の餓鬼どもか」

 虎炎石はそう言うと、白い霧に包まれ切って。もうその姿は見えなくなった。さすがに源龍も構えを解いた。と、そうかと思えば。

「あれー、ここはどこだー?」

 と言う、間抜けな子供の声がする。

 戦場の獣のごとき雄叫びも、白い霧に溶け込むように小さく、聞こえなくなってゆく。

「ここがどこだなんて、そんな細かいことはどうだっていいじゃないか」

 声がする。子供の声だ。あの世界樹のそばで聞いた。

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