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幻想小説 流幻夢  作者: 赤城康彦
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嵐将携帯

「そ、それより水を戴けませんか? 慌てたので喉が」

「ならぬ! 巍軍のことを申せ!」

「はは。上空から白く翼をもてる虎が現れ。瞬く間に巍軍を蹴散らしたそうでございます」

「白く、翼をもてる虎、だと」

「はい。多くの者が見たと申しております」

「翼虎……」

 夢を思い出した。女王は天頭山に我が身を捧げて天湖に身を投じ。それと入れ替わるように、翼虎が飛び出した。

「私めからは以上です。どこから来たのか、翼虎のおかげで白羅は助かりました」

 臣下は報告を終えると、逃げるように離れていった。

 武徳王は気が抜けたか、寝台に横たわり。臣下と入れ替わりに世子たちが駆け付け、臣下と同じように翼虎が巍軍を追い払った話をする。

 まさか、そう思い、見た夢を話した。

「それは、母上の化身では……」

 夢の話を聞き、世子たちはたいそう驚き。翼虎は女王の化身ではないかと言う。

「そなたらもそう思うか」

「はい。ご神仏のお力により、父上に夢として見せてくれたのでは」

「后ならばやりかねぬが」

 横たわる王の目に、一筋の涙が流れ落ちた。

「疲れた。今日は休ませてくれ」

 王がそう言うと、世子たちは部屋から出てゆき、お付きの小姓すらも出てゆかされた。

 ひとりになって、王は泣いた。泣きに泣いた。

 翌日、病身であったのが嘘のように武徳王は堂々と立ち。翼虎による巍軍の撤退でものが言えなくなった臣下らをまとめ、戦後処理に当たった。

 そんな武徳王を見て、臣下たちは口々に、

「王様の後ろに翼虎が見える」

 と言う。

 王は夢の話を隠さずに、語った。話は広がり。翼虎は女王の化身であり。今もどこかで白羅を見守っていると、庶民たちからもささやかれるようになった。

 巍と折衝し、失った領土も取り戻し。天頭山も白羅の領内に組み入れたのも言うまでもない。

 武徳王は善政を布き、名君として歴史に名を残し。同じように、天頭山の翼虎伝説も朝星半島で語り継がれるようになった。

 しかし、光善女王はどんなに探しても見つからない……。

 武徳王は心を痛めた。もはや会うことはかなわぬかと。

 しかし、それで折れることはなかった。

 その武徳王は言う。

「蝶よ、我が心は常にそなたとともにある」


 公孫真はうんうんと頷き。

「胸に残る伝説ですな」

 と言う。

 犠牲の美化は好まぬが、胸に残るのは否めない。

 貴志も頷き、何度も聞かされた伝説であると言う。言いながら。

「光善女王にならい、天湖に我が身を捧げて翼虎になろうという発想は麗にはなかったようですね」

 やはりそれが引っ掛かった。

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