嵐将携帯
自分が言うのは、我が首と引き換えに独立と領民の安堵を守りたいということであるが。玉砕派も理解していない。徹底抗戦をすれば、悲惨なことになるのは火を見るより明らか。それは意に反することだ。
「すまぬが、気分がすぐれぬ……」
武徳王は王座から力なく立ち、小姓に支えられて退席した。その背中を見送る臣下らは、様々な思いに駆られて。結局は言い争いは収拾がつかなかった。
「おいたわしや」
そう涙するのは、后の光善女王であった。
「予はどうすればよいのか」
夜陰に紛れて巍の陣地まで忍び出ようと思っても、心配と称して監視する臣下らのために外に出ることはできなかった。
女王も、
「わたくしも、なにかできることはないのでしょうか?」
王に寄り添い、ともに悩み、民のゆくすえに涙した。
王と女王の間には世子をはじめ王子と王女四人をもうけている。
威厳を備えた王に慈悲深く献身的な女王は民衆の支持も厚かった。臣下とも一致団結して、政をおこなえた。それが、一気に瓦解したのである。
無力さやいたたまれなさに襲われ、身も心も八つ裂きにされそうな苦悶をおぼえ、そのまま悶死するのではないかと思うほどだった。
いや、いっそそのまま悶死した方が楽かもしれないと思うほどだった。
監視の目を光らせる臣下たちは、王と女王が供に寄り添うのを快く思わなかった。特に徹底抗戦玉砕派は。
「女王は慈悲深いお方。我らもお慕い申し上げているが、その慈悲心ゆえに王様のお心を揺るがしているのは否めぬ」
「心苦しい事ではあるが、女王様には王様から離れていただこうではないか」
こうして、徹底抗戦玉砕派は、あろうことか男子禁制の大奥にずかずかと入り込んで、女王を呼び出して無理矢理謁見し。
「まこと心苦しいことなれど、女王様のご心労見るに忍びなく、宮殿から去り剃髪し出家し、お心を安んじられることを臣下一同心よりご助言する次第でございます」
などと、ぬけぬけと言ってのけた。要は宮殿から出てゆけというのである。
侍女や衛兵はその横暴に怒りを覚え、馬鹿なことを、と抗議した。
この時武徳王は宮殿の謁見の間で臣下をまとめようと必死だったが。いつもいる臣下のうち数名がいないのが気がかりだった。それらがまさか奥にゆくなど、さすがに思いもしないことだった。
不意を突かれて、女王はなすすべがなかった。侍女や衛兵はこのことを武徳王に知らせようとしたが、すでに各所に兵が張り巡らされて、止められて、かなわなかった。




