嵐将携帯
それは九百年ほど前、天頭山の大噴火から百年ののちのことである。
大惨事をもたらした大噴火から百年も経てば、復興はなされて、山の周囲や朝星半島も賑わいを取り戻した。
この時朝星半島を治めるのは、白羅という国であった。
大噴火前は高蒙という国が治めていたが、大噴火の大惨事は大混乱を引き起こし。修羅の巷と化した朝星半島は争いが絶えず、ついに争いは国を滅ぼすにいたった。
高蒙亡き後、複数の国が半島を分ける群雄割拠の時代となったが。最後は白羅が統一をなして、とりあえずの落ち着きを半島は取り戻した。はずだった。
同じ時、大陸を治めていた巍は天頭山周辺の復興がなったのを見て。半島への侵攻を開始した。
白羅は完全な独立を求め、かつて対立していた勢力にも頭を下げて一致団結を呼びかけ。巍と対抗することになった。
しかし物量をはじめ、全てにおいてまさる巍は連戦連勝、ついには半島の中ほど、都の漢星の近くにまで迫った。
「この時から漢星は半島を治める国の都とさだめられたのですな」
「はい。時の王、武徳王は死を覚悟し。自らの首と引き換えに民の安穏を申し出ようとしたそうです」
貴志の語りを聞き、公孫真は脳裏に場面を思い浮かべる。
漢星の宮殿において、臣下と王がやりとりをする。
「王様、どうかお考え直しを!」
臣下は分断して、降伏を唱える者、徹底抗戦で玉砕を唱える者とに分かれたが。降伏を唱える派閥の臣下らは頭を床に打たんがばかりに跪いて死ぬという武徳王を諫めた。
「生きてさえいれば、屈辱の晴れる日もいずれ来ましょう」
「いいや、お覚悟を決められたならば、王様を我らに止めることはできませぬ」
などと言うのは徹底抗戦玉砕派閥であった。彼らもすでに死を覚悟しており、王すら道連れにするつもりだった。
「王様、ご安心を。我らもあとに続きまするゆえに」
「なぜそのようにむごいことを言うのだ。白羅に、王に忠誠があるとは思えぬ言葉だ」
「いいや、これもすべて忠誠あればこそ。不当な侵略に屈するくらいなら、死んだほうがましだ!」
などなど喧々諤々の論議、とは言い難い言い合いが繰り広げられた。
武徳王は置き去りにされて、一言も発することもできぬ。
(予はあってなきがごとしか)
大噴火の大惨事に、そこからの群雄割拠の戦乱の半島を統一し、世の安穏を願い善政につとめてきたが。他国から攻められて負けが込むや、この有様である。




