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幻想小説 流幻夢  作者: 赤城康彦
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天湖着水

 遠くてよくわからないが、火口まで人が登り。天湖の船を見て驚いていることは、様子を見てわかった。

 皆大きな声を出して、ざわざわしていて。

「神だ、神が降臨なされたのだ!」

 と言っているのもかろうじて聞こえる。ただそれは暁星の言葉で、貴志以外はわからないと思われたが。

「私たちを神と勘違いしているのね」

 香澄はおかしそうに微笑む。子どもはふたりして香澄にひっついている。

 神の降臨と思い込んでいるのも驚きだが、香澄が言葉を理解したのも驚きだった。

「暁星の言葉がわかるのかい?」

「ええ、わかるわ。そういう風にしてもらえたから」

「訊くな、ややこしくなる」

 源龍が貴志に問うのをやめるよう言った。今はそれどころではないと。

 貴志も問いかけをやめて、人々に目を向けた。

 集中し耳をそばだてれば、やはり神がどうのと言っているようだ。

「噴煙が」

 劉開華が気付いて、東の火口の方角を指させば。たしかに噴煙が消えている。ということは、風向きが変わりこちらに吹いても、あの臭いはないということか。

 となれば、自分たちも助かるが、火口まで来た山の民が長居しかねない。

「山の民は何をしに火口に来たのですかな?」

「おそらく供物を捧げにきたのではと。酒瓶や袋を持っていますね。おそらくそれが供物で、中のものを天湖に捧げるのでしょう」

 なるほど人々は何かしらの荷物を持っている。火口や天湖は人の世界と神の世界の境界とされていた。しんどい思いをして山を登り、天湖に供物を捧げ落とすことで、神への忠誠を示し。ご加護を求めるのである。

 標高の高い天頭山の山頂、火口の天湖までゆくのは試練でもあるが、その試練も神への奉仕とされる。そして奉仕によって加護を得ると教義にあるのである。

「供物が酒や米ですみゃいいがな」

 源龍は集団の中に若い娘がいるのを見た。寒さもあってか分厚い防寒服を来て、頭を頭巾で覆っているが。その頭巾を外し船をじっくり見る。そこで、若い娘だとわかった。

「人身御供か! いやでも、山の民はそこまではしなかったはずだ」

 山の民は天頭山を信仰の対象として合掌礼拝し、天湖に供物を捧げる登山もしている。が、捧げるのはもっぱら酒や米だった。人身御供をすることは聞いたことがない。

 若い娘は突然大声を上げて、上着を脱いで薄着になると、天湖に飛び込んだ。

「馬鹿、やめろおー!」

 思わず皆叫んで。貴志は母国語の暁星の言葉で、やめろと叫んだ。

 しかし若い娘は必死の思いで泳いで、陸から離れ船に迫る。

 劉開華は、縄があったはずよ! と船室に飛び込んだ。他の者たちはやきもきする思いで若い娘が船まで泳ぎ着くのを祈るしかなかった。

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