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幻想小説 流幻夢  作者: 赤城康彦
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天湖着水

「宗教が人を惑わすってなことを言う奴もいるが、オレはそうは思えねえ。悪い奴が宗教を利用して、弱い奴をたぶらかすんだ。あの時の邪教の教祖は、同情の余地のねえ悪人だったぜ」

 流民として、江湖の剣客や傭兵として各地をさまよった源龍だったが、その分見聞も広められたようだ。

 それにひきかえ、ある時出会った坊さんは慈悲深くえらかった、という話をし。 信仰や地位や名誉や富などを生かすも殺すも人次第。信仰も地位も名誉も富も大事だが、人が生かしてこそだから、それらと人の両方が大事だ、という話をした。

 その見識に、貴志と公孫真は感心し。劉開華は強い興味を抱いて、

「源龍さんの話面白い。もっと何か聞かせて」

 とせがんだ。

 源龍はそれに驚きを隠せず、苦笑しながら、

「オレの話なんか面白くねえぜ」

 と言うが。劉開華はそんなことないよとせがむ。が、しかし。

「んー……、オレは口下手だから、何をどう話せばいいかわからねえ。勘弁してくれ」

「そうですか……」

「おひいさま、あまりわがままを言うものではありません」

「はーい」

 公孫真と劉開華の主従であり師弟でもあるやりとりに、皆見ていて微笑ましいものをおぼえた。

 これが物見遊山であればよかったのだが、使命あっての試練の旅なのである。それでも、羅彩女は今まで市井の最下層であえいでいたことを思えば、だいぶましだと思った。

 ともあれ、くつろぎ作戦は功を奏し、それぞれとりあえずでも落ち着いた。卵の腐ったような臭いも、風向きのおかげで臭うこともない。

「さて、ここからどうやって脱出しようか」

 と言いたくなったこともあるが、今日一日はこらえて。心身ともに休ませた状態で脱出策を考えることにした。

 この山頂は聖域として、近づく者はめったにない。もっとも、山頂までは険しい上り坂を登らねばならず。よほどの物好きでなければ、登ることはなかった。

 だから、人はいない。

 ということは、案外なく。やはり世の中には、険しい山を登ることを好む物好きもいるものであった。

「船だ!」

 という声が聞こえた。

 声の方を向けば、十数名の集団が火口縁からこちらを指差して見据え、驚きの声を上げていた。

「山の民か!」

 一同警戒し身構える。聖域を冒したと怒りを買い、何をされるかと一気に緊張をおぼえた。

(やっぱり市井の最下層でも、のんびりしてた方がまだ幸せかも)

 羅彩女は考えを改める。

 天湖は広い。船は広い天湖の真ん中にいる。が、矢は届きそうだ。もし聖域を冒した罰として、火矢を放たれればたまったものではない。

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