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幻想小説 流幻夢  作者: 赤城康彦
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天湖着水

 一千年前の大噴火があったとはいえ、時の流れは大惨事の凄まじさ恐ろしさを薄れさせて。

 山岳に集落もぽつぽつとできていた。

 その多くは四方から来て住み着き、山の民として生きていた。それぞれが流れ着いた事情がある流民も多かったが、住めば都とばかり、住み着く者は住み着いた。

 やがて天頭山を神と仰ぐ土俗信仰も興った。はるか昔に大噴火を起こしたのは、天頭山に神が降臨してのことだと、まことしやかに語り。

 山の民ははるかかなたの山頂を仰ぎ見て、合掌礼拝した。

 信仰が興ったということは、宗教団体として教団も立ち上がったということでもあった。

 簡素、質素ながら神殿も造られ。そこには教団の教主が常住し。多くの信者も通う。

 教主は数ある祈祷師の中から、素質ある祈祷師が選ばれ。天頭山に宿る神の声を、信者に伝えていた。祈祷師は天頭山の神と人間の仲立ちがその役割だった。

 それを巫術ふじゅつという。

「ここは、山の民にとって聖域なんだ」

 皆でくつろぎ、饅頭を頬張りながら貴志は自分が知る限りの天頭山のことを語ったが。聖域という言葉で、公孫真の顔がやや強張ったようだ。

「山の民にこれが見つかれば、大変ですな」

「聖域を汚した異教徒や異端の者は、なにをされるか……」

 貴志は苦笑しながら公孫真に返す。

「神を信じて狂える奴らか」

「まあそうだ。普段は素朴な人たちだけどね」

「厄介だな」

 源龍も狂信者と呼ばれる者を見たことがある。邪神を信じる邪教が人に災いをなし、傭兵として雇われ、討伐に赴いたことがあったが。死を恐れないその狂いっぷりには閉口させられたこともあった。

「だが、哀れな奴らでもあった」

 戦える者をあらかた始末したあと、残された非戦闘員は、ただただ己の悲運を呪って泣き喚いた。神を信じているのに、なぜこんなことに、と。

 その中には女子どもも多かったが、邪教徒として皆処刑をされた。源龍は見られたものではないと、金を受け取ると、さっさとその場を離れたが。なんとも後味の悪い経験だった。

「オレみてえに流民になって、かといって剣客にも傭兵にもなれず、邪神でもすがらなきゃ生きていけねえ。弱く追い込まれた奴ってなあ、本当に見てられねえ。むごいもんだぜ」

 源龍は哀れみをふくんで語る。羅彩女も頷く。

「市井の庶民の最下層は、どれもこれも同じようなもんさ。邪神を信じなくても、悪さをしなきゃ生きていけないところまで追い込まれて。蔑まれて。心も壊れて。しまいにゃ、野垂れ死に」

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