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幻想小説 流幻夢  作者: 赤城康彦
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天湖着水

 源龍はばつが悪そうに軽く手を振り背中を見せて船室に戻って行った。良い所のおぼっちゃまに、字が読めないのを笑われなかったのが少しばかり衝撃だった。

 貴志は眼下の、夜闇の中うっすらと浮かぶ山々を眺めていたが。次に夜空を見上げた。

「あ、暁星……」

 それはまたの名を明けの明星という。夜空の星々の中で、東の方角でひときわ大きく輝いていた。また、それは夜明けが近いことを物語っている。

 国史によれば、暁星国祖は暁星のような存在になって民を導くと誓い。国名も暁星にしたという。

「……」

 ふと、貴志の目に入るもの。山々の連なる山波が夜闇の中うっすらと眺められる、その山波の合間から、立ち上る煙。

「あれは」

 目を凝らし煙をまじまじと見やる。

 暁星の支配する半島は東へと延び、徐々に東南の方角へと下る。

 辰と暁星の境は巍々たる山々が天嶮の壁として立ちそびえている。人がと言うより、この巍々たる山々が人に境を決めさせたと言ってもいい。

 この境界線上の山々の、中央部の一番高い山は、火山だった。

 火山は暁星では天頭山チェトゥサンと呼ばれ。辰側では長天山と呼ばれる。

 船は東の方角に向かい、自分は右舷の船べりにいるので、船は天頭山より北にあるのがわかる。

 留学のため辰の大京へ向かう旅の途中、この堂々とそびえる天頭山を眺めたことが思い出された。

 噴煙を上げる程度の極小さな噴火は今もしているが、一千年ほど前に大噴火を起こしたと伝えられる。

 大噴火は周囲に大惨事を引き起こし、火砕流によりふもとの集落は全滅。噴煙は空を覆い陽光を防ぎ。灰は地を覆い、田畑の作物を滅し。人々にもひどい咳を伴った病をもたらし。

 その時は冬であったが、ただでさえ寒い冬は噴煙空を覆い陽光を妨げたことにより極寒地獄となって地上に降り注ぎ、多くの人々が凍死したという。凍死を免れても、作物も家畜もだめになって食にありつけず餓死。

 生き残るために人は他の人を襲い、奪い、兵革ひょうかくの乱も起こり。あらゆる地獄が火山灰とともに振り注がれた、と半島側大陸側双方にその惨状が伝えられている。

「むごい話だ」

 巍々たる山波の頂点に立つ天頭山を眺めて、もう噴火することなかれと祈らずにはいられなかった。

 船は方角を変えて、噴煙の方へ向かう。

「天頭山か」

 船は天頭山付近に降りるとリオンは語った。天頭山は暁星の民族発祥の伝説がある。

 およそ二千年前、古代国家・古朝星コジョスンが建国されたと神話は伝える。以後人の世紀に入り、大陸と同じように栄枯盛衰を繰り返し、様々な国が興っては滅び、半島を分断したり統一したりの歴史を積み重ねて。

 現在の暁星の時代に至る。

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