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幻想小説 流幻夢  作者: 赤城康彦
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我画願望

 このまま燃え尽きてしまえばとは思うが、やはりそうは問屋が卸さぬもの。

 見よ、筆を包む火から、何か黒いものが飛び出したではないか。

 それは何と形容すればよいのか、ただどす黒い何かとしか言いようのないものだった。それが火から発して、それぞれに襲い掛かって来る。

 源龍は打龍鞭を振るいそのどす黒いものを打ち払う。香澄も七星剣を振るって斬り払い、聖智と羅彩女は軟鞭をもってこれらを打ち払い、龍玉は青龍剣を、虎碧は赤虎剣を振るって斬り払う。

「闇というものは、これほどまでとめどもなく湧き起るものか」

 聖智は苦々しくつぶやいた。自身もまた闇に呑まれたことがあるだけに。

 どす黒いものは蛇か蚯蚓かのようにうねり、無数の群れとなって降りかかり、襲い掛かって来る。

「……、えいっ!」

 虎碧は赤虎剣に念を込め、赤い氷を放つ。が、火に触れた途端に蒸発してなくなってしまった。

「なんて執念なの」

「まったく救いがないねえ」

 虎碧も龍玉も思わず唸らされた。

 羅彩女と源龍は減らず口を叩く気もなく、ひたすらに襲い来る災厄を打ち払うしかなかった。

 鵰の背の穆蘭も、自身の青い珠の七星剣を振るって迫り来る災厄を斬り払う。それをひたすらさせられて、高度を上げられない。鵰も戸惑い思うように飛べないようなので、無理もさせられない。

 羽を飛び伝っていたのが、徐々に下ろされてゆく。

 貴志はそれを見上げて、筆の天下を手にして、

「どうにかならないのか」

 と、戸惑いつつ機会をうかがっていた。鄭拓は自らの姿を筆に換えて、書き出す字をもって天下を動かし、治めようとしたが。己心に食い破られて、自ら放つ火に苦しんでいる、というところか。

 自分たちはそれらに巻き添えを食らっているのだ。

 恐ろしいとか、哀れに思うやら度し難いと思うやら、様々な気持ちが起こる。

「あっ」

 リオンとコヒョが声を上げ、腕を上げ人差し指を伸ばした。その先には、香澄。皆が襲い来る災厄に足止めをされている中、ひとり七星剣を振るい、前途を切り開いて燃え盛る鄭拓の筆に迫った。

「七星剣で斬るか」

 貴志とマリー、リオンにコヒョは期待を込めて見上げた。しかし、すんでのところでどす黒い何かに行く手を阻まれ。それを七星剣で払いながら後退を余儀なくされた。

「だめか」

 コヒョは思わず唸る。リオンは青銅鏡の鏡面を見るが、何も映らない。マリーは思わず貴志に寄り添い。寄り添われたことに気付かず、貴志は筆の天下を握りしめて、忸怩たる思いで戦況を見守るしかなかった。

 筆の鄭拓は何も言わない。ただ火に包まれるのみである。

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