我画願望
皆一瞬戸惑いを見せたものの。
(どうせとどまっていても……)
と、続いて歩き出し。結局は皆歩き出した。
闇に包まれ音も聞こえず声も発することも出来ない。それでも、足は確かに地に着いている。それだけを頼りに、用心深くながら、一歩一歩地を踏みしめて歩く。
貴志は筆の天下を懐に納めて誰かと手をつないで、つないだまま歩く。
マリーは誰かと手をつないで、つないだまま歩く。
やがてもう片方の手も、誰かの手とつながっていた。闇の中を歩くとなれば、誰かと手をつながなければならなかった。かと言って臆病ではない、照れもない。
共に手をつないで歩いた、おぼつかない足取りながらも、闇の中を歩いた。
鳳凰は動かず、静かに佇んだまま。
源龍と穆蘭に鵰も動かず。この沈黙の闇の中、歩く者ととどまる者とに分かれることになった。
(あの坊さんならどうすっかな)
再び源龍は元煥のことを思い浮かべた。それと同時に、今までの来し方も思い浮かべた。
(死にそうで死なねえ、てーか、死んでも死ねねえ人生だなあ)
何がそうさせるのか。坊さんだったなら、天命と言うところか。
(天命か)
そんな大仰な言葉は興味もなければ縁もないと思っていたが。
(所詮私は日陰者、案外こんなのがお似合いなのかもね)
などと穆蘭は考えた。こうして実体化はされたが、叶わぬ恋を抱えさせられて。一体自分は何者なのだろう。そもそもが実在しない存在でもあり。貴志の物書きとしての素質のなさから、陽の当たる場所に出られる保証もない。
(このまま闇に融けてなくなった方がいいかもしれないね)
穆蘭は我知らず闇と一体化しようとしていた。鵰も同じようにするように静かに佇むのみだった。
(恐れぬのか)
鄭拓は様子のおかしさに気付いた。沈黙の闇の世界で、皆恐怖にさいなまされてしまうかと思っていたのに。
(いや、恐れているが、己心の恐れに負けておらぬのか)
何がそうさせるのか。
(ここで逆に、敢えて光を当ててやれば)
と考えた刹那に、
(いやいや、敵に好機を与えかねぬ)
と、逡巡した。逡巡しながら、鄭拓の心に何か火が灯るような感覚に襲われる。
(羨ましい)
などと、どこかで思って。それが鄭拓の心に火を灯すような感覚を覚えさせた。その火は、火打石で起こした小さな種火程度のものだったが、どうにも大きくなって、大火になってゆく。
それを鄭拓は鎮めようとするが、鎮められない。
(嫉妬か)
認めない、頑として認めない。しかし認めまいとするほどに心の火は、炎は熱を持ち鼓動は早鐘の如く鳴ってゆく。




