天湖着水
聖獣・翼虎に会うというが、どのようにして会うのかまだわからない。なにより、自分を知る者と出会ってしまったらと思うと、落ち着かない。
そもそも聖獣に会い、ともに力を合わせて悪者と戦うということは、大きな危機が迫りつつあるということだ。
その危機とは、どのようなものだろう。
生も死も、夢も現も、なにもかもがごちゃまぜになり。人知を超えた出来事が続発し、ついには自分たちは空飛ぶ船に乗って国外脱出である。
運命というものがあらかじめ決まっているとすれば、なにがそれを決めるのだろうか。
ふと気配を感じ振り向けば、そこには源龍。鎧を脱ぎ船室に保管し、私服姿だ。
「さとに帰るってのに、機嫌悪そうだな」
源龍は貴志の様子を不思議そうに眺める。
「源龍、君のふるさとは?」
「ねえよ。どこで生まれたのかわからねえ。あっちこっちをうろうろしてたさ」
「流民か」
流民と言う言葉に、源龍は眉をひそめた。流民と言われて卑下され差別をされてきたからだ。
「ああ、ごめん。つい」
貴志は察して詫びた。
「まあべつにいいけどな」
源龍はふうとため息をつく。
源龍は都・大京から遠く遠く離れた辺境の地で、物心ついたころから戦乱を生きた。江湖の剣客、戦場の傭兵、時には虎や熊など猛獣の狩りなど。命のやり取りそのものが、源龍の人生だった。
と、軽く自分の来し方を語った。
「オレは戦うことしか知らねえ。字も読めねえ」
だが世界樹に導かれて、わけもわからぬままに、今は空飛ぶ船の上。
「今からでも遅くない。頑張れば読めるようになる。何なら僕が」
「ご好意はありがたいが、遠慮しとくぜ。学問なんざ柄じゃねえ」
「そんなことないよ。学問は万人に開かれたものだ」
「本気で言ってるのか、それは」
「本気だよ。文は、学問はすべての基だ。武も文の下積みによってより生かされる」
源龍はそれを聞き、少し悲し気な笑みを見せた。
「ガキの頃、どっかの町で塾っていうのか、それを覗いていたら。『汚い流民の子どもに学問など無意味だ』とか抜かされたことがある。それから、オレは学問嫌いになって、ひたすら武術だった。辺境は戦ばかりだったからな、武術なら流民のガキも教えてもらえた。ま、稽古はきつく、それで死ぬのも多かったがな」
「そんなことが」
「あんとき、お前が言うみたいにそう言われたら、オレも少しばかり字を読めるようになってたかもしれねえな」
「まあ、無理強いはしないけど、気が向いたらいつでも」
「その気になったら、まあ、頼むわ」




