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幻想小説 流幻夢  作者: 赤城康彦
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我画願望

 殺の字がくうを震わせる咆哮を放って、飛びかかって来る。源龍は咄嗟に跳躍して金の羽に足を掛けて、さらに羽から羽を飛び伝って殺の字を躱した。

 殺の字は源龍を追って飛び上がって、羽を跳ねのけながら追った。だが源龍は振り返り、羽に足を掛けて殺の字と向かい合い、打龍鞭を振るい。

 ぶち当てた。

 耳を突くような鋭い金属音がする。打龍鞭は棘に当たったのだ。殺の字は猛獣そのものの咆哮を放った。どこに口があるのやら。目もまたどこにあるのやら、それでも源龍と睨み合っているようであった。

 源龍は羽を飛び伝って。殺の字は宙に浮き、自在に漂い。それぞれが思い切り相手にし掛け。金属音を響かせて、激しく数合渡り合った。

 殺の字は、字というより棘の生えた球体となって源龍にぶつかって来る。打龍鞭は唸りを上げて、それを弾き返そうとぶつけられる。

 戦いは一進一退、互角の勝負が続いた。

「まったく。こいつはどうなってやがる」

 存在そのものが摩訶不思議な殺の字の、刺の球体。ためしに手近の羽をつまんで、飛び道具として投げ放つ。が、儚くも弾き返されてしまった。

 殺の字は雄叫びを放った。

 殺意丸出しで。

(やたらめったら得物ぶつけても仕方がねえ)

 源龍は内心舌打ちする思いで地上に下りる。羽を飛び伝うのも負担が大きい。

 殺の字も追って地上に下り。改めて対峙する。

(どうする?)

 ふと、どうすればいいか考えるが。

(どうするったって、どうもこうもないぜ)

「ええ、ままよ!」

 だっ、と源龍駆け出す。それに応じるように殺の字も突進しだす。打龍鞭が唸りを上げ振り下ろされ、殺の字の棘にぶつかる。

 火花が散る。

 源龍咄嗟に横に跳躍して避け、刺をやり過ごす。打龍鞭がもろ当たりしたにも関わらず、刺には何の変化もない。

(だめか)

 無暗にぶつかっても無駄に疲労するだけだ。源龍は間合いを開け、世界樹の木陰まで逃れて、幹を背にする。殺の字も世界樹の木陰の寸前で止まり、睨み合う。

(殺、か)

 てめえの人生そのものじゃねえかと、源龍は心の中でひとりごちた。字は読めないが、さっき貴志に教えてもらって。その殺の字と自分の人生を思わず重ね合わせてしまった。

(こんな人生、長生きしても仕方ねえが)

 ふと、そんなことを考えた。ちら、と茂れる世界樹の枝葉を見上げた。

(かと言って、生きるも死ぬもままならねえ)

 目を離した一瞬の隙を突いて、殺の字が迫って来る。他の面々は、さすがにこれはやばいと声にならぬ声を放つ者もあった。

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