我画願望
それは、
「殺」
という一字であった。
それが、獰猛な獣のような雄叫びを放った。
「源龍よ、そちの戦いぶりをもうしばらく見せてくれ」
「なんだこりゃ、けったいなもん出しやがって」
源龍は字が読めないので、殺そのものは見えても意味は理解できなかった。貴志は咄嗟に意味を教える。
「殺、殺すってことだよ!」
「殺す? これ殺すって読むのか」
「その殺の字が、魔物か獣となって襲い掛かってくるんだよ!」
「はあ?」
とか言う間に、殺の字は大きくなって源龍に襲い掛かって来る。
「しゃらくせえ!」
迫り来る殺の字を打龍鞭で打ち返そうとするが。当ててもかえって弾き返されて、そのまま体当たりを食らってしまった。
「うおお!」
源龍は吹っ飛ばされて、したたかに背中を打って落ちた。それでも打龍鞭を放さなかったのはたいしたものであったが……。
殺の字は源龍が起き上がる前にまた襲い掛かって。見よ、殺の字から棘が生えてそれを源龍に突き刺そうとするではないか。
「くそっ!」
起き上がれぬとさとり、咄嗟に横に転がって殺の字の棘を避けたが。今度はそのまま一緒に転がって迫って来る。源龍を起きさせないままに、とどめを刺すつもりだ。
だが打龍鞭を抱えて転がり続けるのは無理な話で、どうしても速度が鈍るし、追われているのでなかなか起き上がれない。
殺の字は迫り、ついには追いついて源龍の目の前まで迫った。
万事休すか。と思われたが。源龍は咄嗟に機転を利かせて、打龍鞭を寝そべったまま突き出せば。殺の字は打龍鞭の先端に当たり、その勢いで源龍ごと弾き飛ばしてしまった。
今度は身も心も構えていたので途中で体勢を整えなおして、うまく着地した。
「やるねえ」
「源龍さん、本当に年季の入った戦士なのね」
龍玉と虎碧は感心しきりで。そばの聖智も無言ながら感心して頷く。羅彩女は、そうそうと得意げに頷く。
香澄は無言、そして無心で戦いに見入った。加勢に行きたいが、源龍もそれは望まない。勝利を祈るしかなかった。
「まったく、たいしたものだなあ」
貴志も感心をしめす。
「ふんだ。あたしだって」
穆蘭は自分も十分戦えることを主張する。
ともあれ戦いはここからだ。機転を利かせて体勢を整えなおしたに過ぎない。
殺の字は源龍と対峙し、雄叫びを放った。棘は生えても口もないのに、どこから声を発しているのやら。
(大見得切ったけどよ、こりゃやべえかもしれねえな)
殺の字と対峙しながら源龍は内心苦笑していた。金の羽が雪のように降る。




