我画願望
貴志は何とも言えない気持ちだった。貧しい身の上から、科挙を経て辰の宰相になったが。あくまでも自分の栄耀栄華のためであり、上は皇帝下は万民のためにという気持ちなど微塵もなく。
ついには反乱を起こして辰を乗っ取ってしまったばかりか。世界樹の子どものうちのひとりだったなんて。しかも弟がいたが、役立たずなので殺しただなんて。
羅彩女と言えば、源龍の戦いぶりに釘付けであった。
黒蜥蜴龍といえば、源龍と地上で戦うなどせず。空から黒い影の火焔を放つばかり。人間同士でも勝つためには何でもする。そこに作法もへったくれもないし、作法云々を説くのは阿呆である。いわんや獣。
黒い影の火焔は黒い熱風となって、源龍の身を焼こうとする。それを素早い身のこなしでさけながら。反撃の機会をうかがう。しかし、空を飛べる者と飛べぬ者である。
「どうする気なんだ?」
貴志は気が気でない。いかに源龍が強いと言っても、空を飛べる者相手に、どうしようというのか
「源龍は言い出したら聞かないから」
もし勝手に助太刀などしようものなら、それこそ烈火のごとく怒り狂って、打龍鞭を振り回すことは想像に難くなかった。
「世界樹さんよ、ちょっとばかしその身を使わせてもらうぜ!」
源龍は世界樹の木陰に駆け込み、跳躍して片手で枝を掴み、鎧を身にまとい打龍鞭を片手で持ちながらも、もう片方の手を上手く使い、猿のごとくに世界樹を上ってゆき。
その枝葉の茂みの中に隠れてしまった。
さすがの黒蜥蜴龍も世界樹には手出しが出来ぬと見えて、火焔を放たない。
「ほう」
などとう感心の声が西の太陽からした。
かと思えば、世界樹から黒い影が飛び出した。源龍か、と思われたがそうではない。ぶうんと唸りを上げて、世界樹を見下ろす黒蜥蜴龍に向かって勢いよく飛ぶのは、打龍鞭であった。
不意を突かれてか、黒蜥蜴龍は避けきれずに、打龍鞭はその長い首の真ん中ほどに見事に当たった。
打龍鞭が当たった衝撃に、喉に当たったことで呼吸が乱れて、黒蜥蜴龍は体勢を崩して真っ逆さまに落ちてゆく。打龍鞭も跳ね返って、上手い具合に世界樹のそばに落ちて。同時に落ちた。
その刹那に源龍も世界樹の枝はの茂みから飛び降りて、駆けて、打龍鞭をひっつかんで。
落ちて倒れこむ黒蜥蜴龍に迫って。
ぶうん、と打龍鞭を振りかざして。その脳天にぶち当てた。
衝撃からか、黒蜥蜴龍は身を倒したまま長い首を立て顔を上げて。不穏な悲鳴を放った。源龍は咄嗟に離れた。




