我画願望
黒い影の破片が宙に散った。
「やった!」
羅彩女は拳を握りしめ、会心の心地だった。他の面々も目を新たに現れた筆からその戦いに向けた。
黒蜥蜴龍は、不穏で不気味な叫びを放った。そうするうちに源龍は落下し、着地した。
黒蜥蜴龍は禍々しい叫びを放って、宙を舞い。源龍を忌々しそうに見下ろしていた。源龍などは調子よく意気も盛んだ。
「どうしたどうした、てめーもその程度かッ!」
打龍鞭を振り上げ、はるか頭上の黒蜥蜴龍を挑発する。
「すごいな、まさに打龍鞭」
貴志は源龍の戦士としての素質と、その得物に改めて感心していた。龍玉と虎碧、聖智もその存在を心強く思っていた。
「さっきまで鋼鉄の龍とやりあってたから、おかげで休めて助かるわあ」
などと、龍玉は呑気なことを言い。虎碧と聖智もそれに笑顔で頷く。しかし鵰の背の穆蘭は、
「ふんだ。あたしはまだまだ戦えるよ!」
などと意地っ張りなことを言う。が、それもそれで可愛らしく微笑ましいと、龍玉らは「はいはい」と笑って頷いた。
刹那に黒蜥蜴龍が光った。火焔を放ったのだ。その火焔も影そのものの黒さだったが、熱はしっかりあるようで。
「あちい!」
などとぼやきながら源龍は咄嗟に跳躍して避けた。
「ってゆーか、みんなで一斉にやりゃあすぐに終わるのに!」
穆蘭は言うが、源龍は聞かない。
「こいつはオレの獲物だ。手ぇ出すな!」
「もう、やられても知らないよ!」
「オレは負けねえ!」
「ふんだ、馬っ鹿じゃないの!」
穆蘭は舌を出しあかんべえをして、鵰を泳がせる。彼女も彼女でいっぱしの戦士である。戦いを求める自己の欲求には逆らえない、いや、逆らわなかった。
(しかし香澄ちゃんとは本当に対照的だなあ)
彼女は貴志は自分の創作の登場人物である。それが実体化して、剣になったと思いきや、また戻って、減らず口を叩くのである。辻褄も何もへったくれもない。なんという三流文学的な展開なのか。
この世界そのものが創作だとしたら、作者の素質のなさは絶望的だと呆れずにはいられなかった。
ともあれ、源龍と黒蜥蜴龍である。が、香澄の目がそれに釘付けになることはなかった。時折、西の太陽から出た筆に目をやる。
「香澄ちゃん、あの筆も、僕の天下と同じ筆なのかい?」
彼女は静かに頷いた。
材料は世界樹の木材に鳳凰の羽毛。なんという材料だろうか。そんなものがあるなんて、しかもふたつも。
「それを、忘れさせられていたって?」
「そうね……。私も、不安を禁じ得ないわ」
「鄭拓って、そんなに……」




