表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幻想小説 流幻夢  作者: 赤城康彦
519/539

我画願望

 とはいえ、よく出来た筆であるのは確かだ。軸の手触りもよく、白い穂首の毛もふさふさのさらさらで、実際に墨をつけて書いた時の感触もよかった。さらに、くうに何かを描き出すとき。滑らかと言うか、筆が導くように書けたものだった。

「教えてやろう! 軸は世界樹で出来ておる。毛は鳳凰の毛で出来ておる」

「なんだって!」

 貴志は筆を眺めながら驚き、筆の天下をまじまじと見やった。それから、香澄やリオン、マリーにコヒョを見やった。

「知ってた?」

「ごめん、そこまで知らなかったよ」

 リオンは肩をすくめながら言う。香澄も同じくだった。

 世界樹の住人である子どもすら知らないことを、鄭拓は知っていたのだ。が、香澄はハッとする表情を見せ、

「知らないことはないわ、忘れさせられているのよ!」

 と、澄んだ声を張り上げた。同時に、しゃ、っと鞘から七星剣が抜かれ。ふたつの太陽のうち、西側の太陽を剣先で指した。

「鄭拓は世界樹じゃないわ、あの、西の太陽よ!」

「なんだと!」

 皆の目が世界樹から、一斉に西の太陽に向けられる。

 空に太陽はふたつ。東側と西側にある。香澄は西側の太陽を七星剣の剣先で指している。

 そういえば、一同と世界樹の影がふたつ。西と東に延びている。これも西と東にふたつの太陽があるためか。

「ほう、よくわかったな!」

「世界樹だなんてからかって。あなたはあくまでもあなたでしょう。そしてとらえどころがない」

「ふ、ふふ! さすが香澄。 お前は昔から一筋縄ではいかなんだな!」

「からかわないで。それにまだあるわ」

「なんだ、言ってみよ」

「鄭拓も、世界樹の子どもたちのひとりだったのよ」

「覚えていたか!」

「私も忘れていたけれど、思い出したわ」

「よく思い出せたな」

 何の話をしているのか。他の面々にはさっぱりだったが。鄭拓を名乗る声と香澄は噛み合って話が出来ているようだ。

「弟がいたはずよ」

「殺した。役立たずなのでな!」

「……、なんというひどいことを」

「うるせえっ!」

 会話に挟みこまれる突然の叫び声。源龍だった。打龍鞭を担いで、左目をつむりつつ西の太陽を睨む。

「御託を並べやがって。結局はオレたちをどうしようってんだ。弟みてえにぶっ殺すつもりなんだろうが!」

「はははッ!」

 すごむ源龍に鄭拓の声は闊達に笑った。

「いい目をしているな、お前は役に立ちそうだ。どうだ……」

「うるせえっ、つってんだろうがッ!」

 担いでいた打龍鞭を振り上げ、ぶうんと振り下ろす。それが意思表示だった。

(こういう時、源龍は心強いな)

 なまじっかな教養ある者はつい間合いを測ろうとしてしまうが。それは相手の術中に陥ることにもなりかねない。そんな時は、源龍のような「うるせえ!」という一喝が案外効いたりするものだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ