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幻想小説 流幻夢  作者: 赤城康彦
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我画願望

 咄嗟に木陰から出て、ひと塊になる。

 香澄は落ち着いている様子のようで、目は一杯に見開かれていて、驚きを隠しきれていなかった。他の面々は驚きを素直に面に出していた。 

「ようこそ!」

 などという声が響く。やはり世界樹からだった。

「なんだてめえは、世界樹じゃねえな!」

 源龍が一喝をくれるが、世界樹は平然としたもの。

「いや、世界樹である。新たな世界樹として世に君臨する!」

「新たな世界樹だと、狂ったのか!」

 世界樹の声は明らかに壮年の男の声だった。ふと、リオンは青銅鏡を見た。

「!!」

 青銅鏡を見て、絶句。そこには縛られて気絶し倒れる青藍公主に公孫真、雄王が映し出されていた。他の面々も見た。

 貴志は恐る恐る、

「まさか、鄭拓?」

 と尋ねれば。

「いかにも、鄭拓である! 新たな君主である!」

 などと、自信満々の声が返って来るではないか。

「……鄭拓、辰の宰相か」

「そのようです」

 聖智も名前くらいは知っていたが。辰の宰相がこの草原の世界の大樹とは、これいかにと混乱しそうな気持だった。

 龍玉と虎碧は鄭拓を知らないので、何とも言えないが。声から禍々しさはしっかりと伝わった。

「一体どうやって世界樹に?」

 リオンは絶句しつつようように声を絞り出す。そういえば、三人が縛られて倒れているのを青銅鏡で見たが。何もない白ったの世界である。一体どこの異世界に導かれたのか。

「三人には消えてもらう。安心いたせ、気を失ったまま消え去るようにしておるゆえ、苦しみはない。公主には世話になったからな、せめてもの恩返しじゃ」

 リオンの意を察してなのか、世界樹の鄭拓はそう言う。

 青藍公主こと劉開華は人を差別するような冷たい心のない人物で、鄭拓も差別されることはなかったが。苦しまずに消し去るのがせめてもの恩返しというその物言いに、底知れぬ冷たさを禁じ得ない。

「ところで!」

 なんだと思えば、

「筆があろう!」

 などと言う。貴志はそれを手にして、見せた。

「この筆の材料を知っているか?」

 何かと思えば、そんな質問をするとは。源龍らは、はあ? と呆れ顔を示したが。貴志と香澄は顔を引き締めた。

 鳳凰と鵰は地に足を着け羽を休めながらも、世界樹をじっと見据えている。

「そういえば、知らないな……」

 柄の部分、軸の手触りを確かめつつ。毛の部分、穂首をじっと見据える。軸は木材を加工して作られている。穂首の毛は、これは何の毛だろうか。

 懐に収まるくらいの大きさで。軸も細い、穂首の毛も短すぎず長すぎずの丁度の長さの、丁度良い毛筆ではあった。それが何で出来ているかなど、考えたこともなかった。もっとも、そんな余裕もなかったが。

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