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幻想小説 流幻夢  作者: 赤城康彦
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我画願望

「じゃあ行こうかッ!」

 鵰の背の穆蘭が威勢よく言えば、鳳凰は羽ばたき、鵰と並んで空を舞う。

(行くったって、どこに?)

 貴志はふと思った。どこに行こうと言うのか、行き先も告げられないままだ。だけど、不安はない。

「なんか知らねえが、オレはわくわくするぞ」

 などと源龍は言い。羅彩女も同じくと頷き。香澄は微笑み頷く。

 気が付けば空はすっかり晴れ渡って。空に浮く島のような、饅頭や団子のような白い雲が心地よさげにぷかぷかと浮いて。その間を縫うように鵰と鳳凰は飛び。

 その背に乗る面々は心地よい風を受けていた。

「ああ……」

 貴志はふと、下を覗けば。地上が見える。山河が見える。街が見え。そこに人の、生命の営みがあることを感じる。

 そういえば、古代の詩人が、こんな風に聖獣に乗って空を飛んで、喧騒から離れて、地上を見下ろして感傷に浸るという、そんな内容の長編詩を書いていたことを思い出す。

 もっとも、その詩人は故国の亡びを嘆くあまり自ら命を絶ってしまうという悲劇があった。詩は遺書のようなものだった。

 思わず貴志は自身と古代の詩人を重ねてしまった。

(だけど、僕は……)

 一緒に鳳凰の背に乗る面々を見やる。

(この人たちと一緒に、ふるさとに帰るんだ)

 また、皆で海鮮チゲを囲んで、楽しく飲み食いがしたかった。それぞれ鳳凰の背に乗って空を飛ぶのがよほど刺激的で楽しいのか、貴志のように感傷的にならず、周囲を見渡し、地上を見下ろして、高い高いと無邪気にはしゃいでいる。

 鵰の穆蘭はまっすぐに前を見据えていた。

 ふと、マリーがこっちの方を向いて貴志と目が合った。

(うっ)

 貴志は急な恥じらいを覚えつつも、かろうじて微笑んで頷いて。マリーも微笑みを返して頷く。

 娘の虎碧はその様子に気付かず、相方の龍玉と一緒に風を受けて雑談にふけっている。

 それから、さりげない素振りを装い、地上を見下ろす。

(ああ……)

 貴志は感傷に浸ってしまっていた。それは心地の良い感傷で、いつまでも浸っていたかった。

 そして心の奥底から、生を渇望していることに気付いた。

 生きていればこそ。

 と思いつつ、眼下に雲海が広がっていることに気付いた。地上から見上げれば灰色の雲も、上から見れば白い。それが空に絨毯のように敷き詰められて、まさに雲の海、雲海をなしていた。

天頭山チェトゥサン!」

 凛とした声で、聖智が叫んだ。鳳凰はいつの間にか天頭山を見下ろすところまで来ていた。その天頭山を神と崇め信仰する天頭山教の教主こと天君チェグンである聖智には、こみ上げるものがあるのを禁じ得なかった。

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