天湖着水
ちなみに、女は、何かあった時にすぐ用意できるよう複数人さらってきており。別室に監禁している。
「こうでもせねば、やっておれぬわ」
鄭弓は部下に命じて女を連れてこさせて、自らの慰みものにもしていた。
女は己の悲運を嘆いてひたすら泣いた。だが鄭弓は素知らぬ顔で女を弄んだ。
その一方。
「それにしても……」
皇太子の様子を想像し、皇帝皇后は、
「子に恵まれぬ」
と嘆いた。
靖皇后の生んだ子は、皇太子は気が狂い。公主は逃げた。
嫡流がこの様ではと嘆いた。
皇帝には他に多くの側室がおり、それらも子を産んでいる。が、それらの子らには、どうにも愛着が湧かなかった。
「朕は思うのだ」
悩める康宗は思いの内を靖皇后に打ち明ける。
「いっそ賢を廃嫡し。開華を探し出して、しかるべき男子をつけ。それに跡を継がせようかと」
「そのようなことを、お考えでしたか」
「そなたは、どう思う?」
「お言葉ながら、開華も問題が」
「その憂いもわかる。しかしながら、開華は我らを誤解しているだけだ。見つけ出して、とくと政のなんたるかを説けば、わかってくれるであろう。公孫真もおる」
「そうでした、公孫真のおかげで、開華は健やかに育ちました」
「あのお転婆を、よくぞしつけてくれたと、公孫真には感謝しておる。彼にも、政のなんたるかを説けば、わかってくれるであろう。その上で」
康宗は一旦言葉を止めて、息を整えて、言葉を継いだ。
「早すぎるかもしれぬが、今のうちにしかるべき男子を選んでおこうかと」
「それなら……」
「誰か心当たりがあるか」
「開華は、暁星の歌舞団に入れ込んでおる模様です」
「暁星のか。そなたも、暁星の演劇団の演劇をよく観ておるではないか」
「ほほ、この母にしてこの娘あり、といったところでしょうか」
「暁流はまこと流行しておるのだな。……そうか、暁星の王子からしかるべき男子を選んで」
「さすが、ご明察でございます」
「よし、早速遣いを送ろう」
話は決まり、暁星への使節団が結成されて、大京を発った。
偉大なる辰帝国皇帝の使節団である。豪壮にして華麗、華美。屈強な鉄甲兵の鎧から、官人の官服まであらゆるものがきらびやかで人目を引いた。
それを見送る暁星からの留学生たち。
「やっぱり辰はすごいな」
と感心し、見送りが終われば寮に戻った。
戻ってから、空いた寝台を気にする留学生。
「貴志はどこに逃げたのか……」
自分の立場もわきまえず、文学者になりたいという夢を持ってしまって。その夢のために、思い余って逃げ出してしまったのだろうか。




