我画願望
その一方で筆の天下から出でし善い鳳凰は三人を乗せ、鋼鉄の火龍と対峙する。
鋼鉄の火龍は火焔を噴き出せば、周囲に舞う無数の金の羽は一瞬に灰となり。善い鳳凰は咄嗟に避けてやり過ごす。それでも熱風は我が身を撫でて。忌々しそうに嘴から咆哮を轟かせる。
龍玉と虎碧、聖智も熱さを堪えて我が身を背に預ける。善い鳳凰は風を切って飛び、そのおかげで身はすぐに涼しくなった。
地上においては、悪い鳳凰の天下は空の彼方へと消え去り姿が見えなくなって。もう一方の善い鳳凰もよく戦っているのがわかって。もちろん貴志や瞬志らの諫めも功を奏して、徐々にでも落ち着きを取り戻していった。
中には、
「頑張れー!」
「いけー、やっちゃえー!」
「いいぞいいぞー!」
などなど、空に向かって声援を送る人も出てきた。貴志と瞬志らはよい傾向だと微笑み合った。
その声援は三人にも、かろうじて聞こえた。
「まあまあまあ、嬉しいねえ」
「皆さんの期待に応えるために、頑張りましょう」
「……」
龍玉と虎碧は素直に喜びを表すが、聖智は余計なことは言わずに押し黙った。思えば、このようにして民衆から声援を受けたことなどあっただろうか。改心して天頭山教を率いて、世のため人のために働いたが。そこで初めて、心から感謝されたのではなかったか。で、それ以前は……。
教主として畏怖はされたものの、その内情は? と思うと、複雑になる。
力を示したところで人は心から従わず。ましてや感謝や声援など。観念して新たな人生を歩み出して、やっと初めて感謝をされて、応援もされるようになった。
聖智は思わず感慨に浸ってしまったのだった。
「人、か」
ぽそっとつぶやく。
そうだ、人こそ大事なのだ。己だけでなく人を大事に、自他供の幸福を願うことこそが大事なのだと、やっと気付いた。
亡国の復興など、何ほどのことがあろう。亡国の悲哀や侘しさもあろうが、そのことは貴志のような人はすでに答えを持っているのではないか。学問や歴史の事はまだまだ疎いが、ふと、そう思った。
筆の天下から出でし鳳凰は鋼鉄の火龍の火焔から逃れるために高速度で空を駆け巡っている。三人は身を預け、攻める機会をうかがっている。
しかし、鋼鉄の火龍もさるもの。素早い動きで背後を取ろうとしながら火焔を噴き出す動作に隙はなく、ここは無駄足掻きはせずに素直に逃げ回りながら反撃の機会をうかがった。
幸い、鋼鉄の火龍は筆から出でし鳳凰と三人に専念して、地上を攻めることはなかった。地上にかまっては隙を見せることになるのは、わかっているようだ。




