我画願望
「そうだ、我々にも出来ることはあるぞ!」
瞬志もさすがに呆然としていたが、貴志の声にはっとして。部下らを、
「しっかりしろ!」
と、一喝すれば。部下らもはっとして、立ち上がり。また役人たちもはっとして、瞬志を見据えた。
すでに貴志は志明を他の者に託して真っ先に外に出ていて、
「落ち着きましょう!」
と諫めて回った。瞬志もやや遅れて飛び出す。
「……、我々も続くぞ!」
部下や役人たちは、貴志と瞬志が飛び出すのを見て、意を決して同じように飛び出し。
「落ち着け、落ち着け!」
と、騒ぐ人々を落ち着かせて回った。
「鵰ともう一羽の鳳凰は我らの味方です。僕らは勝利を信じて、落ち着きましょう!」
「は、はい!」
貴志は誰彼構わず、兎にも角にも落ち着けと、完全に絶叫して。貴志も落ち着いていないように見えないこともなかった。しかし、迫真の説得が功を奏して。
「は、はい!」
と、騒いでいたのが鎮まって、皆動きを止めた。と言いたかったが、もちろんすべての人々を説得出来るわけもない。
「わああああーーー!」
「ぎゃああああーーーー!」
「うひゃうえええーーーー!」
などなど、言葉にもならぬ叫びまで上げて騒ぐ者に説得は通用せず。
「すまぬ!」
と謝りながら、瞬志やその部下に腕に覚えのある武官たちは、どうにも騒いで止まらぬ者をやむなく気絶させた。
志明は、呆然としたまま、部下に支えられて。己の不甲斐なさに忸怩たる気持ちを覚えていた。
「貴志の方が、私よりも人の上に立つ素質があるな……」
などと、ぽそっとつぶやく。そこに、「いいえ」という官女の声に、微笑み。馬鹿にされているのかと思いきや、そうではなかった。
「志明さまも、立派なお方ですわ」
「そうですよ、あなたは私たちを人として尊重してくださいました」
「私たちは志明さまをお慕い申し上げております」
そう言われて、とたんに顔を赤らめて、
「そ、そうか」
と、照れつつ頷いた。
先代の代官は一言で言えば乱暴者で、役人たちに散々嫌な思いをさせた。たまりかねて「なんとかしてくれ!」との旨を、勇気を振り絞って王に上奏し。これを重く見た王は、
「けしからん、予の期待を裏切りおって!」
と、先代の代官を罷免。代わって赴任したのが志明であった。
志明は父の言いつけを守り、役人や女官に嫌な思いをさせず、ひとりひとりを人として尊重した。
確かに気は弱いものの、それを補って余りある人徳のおかげで、庁舎は平和になり。それが浸透するように慶群も平和であった。




