我画願望
あの第二の世界樹の世界の池で見かけた鋼鉄の火龍と、こんなかたちで再会しようとは。
金の羽は散らばり、金羽龍はなくなるどころか。その中から現れたのは……。
「いったいどうなってんのこりゃ!?」
「あの鋼鉄の火龍が、どうして」
ありえない話だ。悪い鳳凰の天下の金の羽が集まって出来た金羽龍の中で、何が起こっていたのか。
禍々しく輝く銀色の姿に、これまた禍々しい赤い目。
地上は混乱していた。吉兆と思われた鳳凰が現れたと思いきや、である。庁舎詰めの役人や召使いはおろか、帯剣の武官ですら、腰を抜かしてへたりこむ有様だった。
志明もへたり込みそうになるところを、貴志がかろうじて支える。瞬志はさすが、絶句はしているもののひとりで立ててはいた。しかし帯同の部下はへたりこんでしまった。
「ははは、焼かれてしまえ!」
というこれまた禍々しい叫び。あの悪い鳳凰の天下だ。鋼鉄の火龍が現れて、筆の天下から出でた鳳凰と渡り合うのを放棄して。一瞬の隙を突いて、さっさと離脱してしまった。
どうしてくれようと言ってはいたが、それは鋼鉄の火龍を出現させることだったのだろうか。
「さっさと逃げ出すなんて、やっぱり天下だなあ」
貴志は志明を支えながら、忌々しく、かつ呆れてつぶやいた。
が、穆蘭は逃がそうとしなかった。
「そいつは任せた!」
と、鋼鉄の火龍を他に任せて。己は鵰をけしかけて追わせて、速度を上げさせ。追いつき、追い越し、旋回して睨み合えば。
七星剣の青い珠は光り。
「天光北斗弾!」
咄嗟に光弾を放った。
「忌々しい、不味い者が!」
悪い鳳凰の天下はいよいよ忌々しさを増した叫びを放った。同時に光弾はその身に当たり、炸裂した。
「ちょっと、まずは火龍じゃないのッ!」
鳳凰を追う穆蘭向かって叫ぶ龍玉だが。
「こいつ仕留められるときに仕留めなきゃ、いつまでたっても終わらないよ!」
と、返って来る穆蘭の返事であった。
(っていうか、僕は見てるだけか)
貴志は忸怩たる気持ちになる。戦おうと思えば戦えるのだが、さすがに空は飛べない。筆の天下も、何かが出そうな気配はなく、結局女性らにばかり戦わせてしまって。
わああ、という騒ぎが聞こえてくる。いや、聞こえていたのだが、空の事で頭がいっぱいになって、気付くのが遅かったと言うべきか。
貴志は役人たちを見据える。
「何をしているんですか! 慌てる人たちに、落ち着くように諫めに行ってください!」
すまない気持ちを覚えつつ、貴志は役人らに叱責するように敢えて言った。




