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幻想小説 流幻夢  作者: 赤城康彦
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天湖着水

 皇帝と皇后の驚きや嘆きとは別に、荒む者があった。それは劉開華の兄にして、皇太子の劉賢りゅうけんであった。

 齢二十歳の若き皇太子は、色白で貴公子然とした整った容姿を誇りながら。その目つきは、禍々しく。悪鬼にその身に入られたかのようだと、宮殿の官人は裏でこっそりささやき合った。

 劉賢も同じように自室にこもっていた。が、この皇太子の場合は同じこもるでも事情が違った。

「開華を愛する私の何がいけないのだ!」

 そのようなことを獣のような声色で叫んで、抑えられぬ思いを、こみ上げる欲情を、おそばの女官で紛らわせるも満足できず。ひどいときには、

「お前は開華ではない!」

 そう、怒りをあらわに暴力を振るい。高じて剣で刺し殺すこともあった。

「やはり開華でなくてはならぬ!」

 何の羞恥心もなく、股間を膨らませて妹のもとまでおもむき、逃げられて。公孫真に止められた。ということも一度や二度ではない。

 さすがに正気の沙汰ではない、狂気の沙汰であり。見かねた康宗と靖皇后は、鄭拓に相談し、その結果この皇太子を自室に監禁してしまった。

 人食い鳳凰の事変より十日前のことである。完全に外の世界と断絶させられ、公主失踪も知らされていない。

 屈強な衛兵が見張り、外に出られないようにして。食事も屈強な衛兵が運んだ。ちなみに皇太子を見張る衛兵らを率いる責任者は、鄭拓の弟の鄭弓ていきゅうであった。

 鄭弓は皇太子の自室の隣の部屋をあてがわれて、皇太子監禁の任に当たった。

「隊長、女がだめになってしまいました」

 戸板に乗せられた女の亡骸を見せ、部下の衛兵が鄭弓に報告する。

 監禁させられているとはいえ、女もあてがわれたが、ひどい暴力を振るいついには死なせてしまうことが多かった。

「いちいち報告せんでもよい。次の女を……」

「今献上したところです」

「わかった。死体を片付けろ」

「はッ」

 衛兵は包拳礼をし、さがってゆき。鄭弓は「やれやれ」とあからさまに呆れてみせる。

「誇り高き近衛兵長候補のわしが、気の狂った皇太子の見張りとは。しかも……」

 皇太子が弄ぶための女を市井から探して、密かに誘拐して、献上をせねばならぬなど。なんたる屈辱。

「こんなけちな仕事を押し付けるとは。兄者もひどい」

 鄭弓は小さな一隊を率いる小隊長の身分だが、もっと上へとの出世欲も強い。兄はうまく宰相までのぼったが、弟には、

「縁故採用で重く用いるのは、あらぬ疑いや妬みを招いてかえってやりづらくなる。我慢して今の職務を果たせ」

 と言って、今の地位で頑張るよう助言し。人が嫌がる仕事を押し付けた。

 納得できなかったが、ゆくゆくは近衛兵長として近衛兵の頂点に立つという野望を胸に抱いて、無い忠誠心をあるように見せかけて自分の仕事をこなした。

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